東京慈恵会医科大学の研究グループは,難治性感染症の発症や水浄化システムの機能低下などの原因となる微生物の集合体であるバイオフィルムを,内部の微生物が生きたままの状態で瞬時に透明にして顕微鏡で観察する世界初の新技術iCBiofilm(アイ・シー・バイオフィルム)法を開発した(ニュースリリース)。
従来の光学顕微鏡法では,光の散乱や屈折によりバイオフィルムの表面から20μm程度の深さまでしか観察できず,その全体像や内部の微細な構造を観察することは極めて困難だった。
研究グループは,既存の組織透明化技術を用いてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のバイオフィルムの透明化を試みた。しかし,①透明度が不十分,②透明化処理の過程で界面活性剤などの脂質除去作用などによりバイオフィルムの構造が部分的に壊されてしまうm③透明化処理に数日から数週間の時間を要する,という問題がある。
その一方,イオヘキソールという化合物のみを含む水溶液にMRSAのバイオフィルムを浸漬させると,バイオフィルムが瞬時に透明になった。イオヘキソールは水に良く溶け,屈折率が極めて高く,水溶液中の濃度を変えることで屈折率を自在に調整できる。
そこで研究グループは,イオヘキソールを基に,透明度が高く,バイオフィルムの構造安定性に優れた条件を決め,500μmを超えるような分厚いバイオフィルムでも瞬時(数秒以内)に透明にするiCBiofilm法を開発し,世界最高性能の深部イメージングを実現した。
また,iCBiofilm法法を応用することで,微生物が生きたままの状態で透明にすることが可能になり,その形成過程や抗菌物質の殺菌作用を詳しく解析できるようになった。それらにより,これまで困難とされてきた難治性バイオフィルム感染症治療法の開発や水浄化システムの高効率化など,様々な分野での社会実装に繋がると期待されるという。
研究グループは今回の成果を活用し,ヒトの組織表面や体内に埋め込まれた医療デバイスに形成されたバイオフィルムの観察を現在進めている。また,水浄化システムの濾過膜の表面,住環境(バスタブや台所),および発酵食品の製造過程などで形成されたバイオフィルムの観察にも応用できるという。
さらに,今回の成果をもとに,スフェロイドやオルガノイドなどの動植物細胞の集塊のようなバイオフィルム以外の生体試料も透明化できる「3Dライブセルイメージング法」の開発を目指した新プロジェクトを立ち上げる予定だとする。
なお,バイオフィルム透明化試薬「iCBiofilm―H1」および「iCBiofilm法―H2」は,東京化成工業より製品化されているという。