アストロバイオロジーセンター(ABC),国立天文台,東京工業大学,米カリフォルニア大学サンタバーバラ校,米NASAらは,すばる望遠鏡の超高コントラスト補償光学システムを利用した観測により,太陽のような恒星を周回する褐色矮星の直接撮像に成功した(ニュースリリース)。
褐色矮星は,恒星と惑星の中間の質量を持つ,太陽系には存在しない種類の星。木星のような巨大惑星と軽い褐色矮星はほとんど同じ性質を持つと期待されるため,巨大惑星の進化や大気を調べる上でも重要な存在となっている。
褐色矮星には,宇宙空間を単独で漂う「孤立型」と,恒星を周回する「伴星型」の2種類が存在するが,数千個の褐色矮星が見つかっているうち,伴星型の褐色矮星の頻度は100 個の恒星あたりに数個ほどしかない。そのため,伴星型の褐色矮星を発見する方法について研究されてきた。
研究グループは,伴星型褐色矮星と惑星を効率的に発見するための方法を新たに構築,すばる望遠鏡による撮像探査を進めてきた。この探査では,銀河系内の恒星が独自の速度を持って運動することによる「固有運動」の情報を利用する。ある恒星を伴星が周回する場合,その恒星の固有運動が伴星の重力の影響で「加速」する。
しかし,褐色矮星や惑星のような軽い伴星によって引き起こされる速度変化は非常に小さく,その測定は困難だったが,ヨーロッパの位置天文衛星「ガイア」と「ヒッパルコス」の両望遠鏡の測定値の差を測ることで,固有運動の微小な加速を導出できるようになった。研究グループは,太陽系近傍にある恒星の固有運動の加速を調べ,巨大惑星や褐色矮星の伴星が存在する可能性のある複数の恒星を選出した。
そして,すばる望遠鏡の最新の高コントラスト観測装置であるSCExAOとCHARISを用いた観測を進め,恒星HIP 21152を周回する褐色矮星「HIP 21152 B」を直接撮像により発見した。
さらに,すばる望遠鏡やケック望遠鏡による合計4回の直接撮像と,岡山188cm望遠鏡の分光器HIDESによる恒星HIP 21152の視線速度観測,そして,位置天文衛星による固有運動データを組み合わせることで,HIP 21152 Bの軌道を決定した。伴星の軌道が決まるとその質量を推定できる。
軌道解析からHIP 21152 Bの質量は,木星の22~36 倍と決定された。これほど精密に質量が決定された褐色矮星の例はまだ20例程度しかないという。また,質量が精密に決まっている褐色矮星の中では,最も軽く,惑星質量に迫る天体であることが明らかになった
研究グループはHIP 21152 Bが,巨大惑星と褐色矮星の進化やその大気の研究をする上で重要な基準天体になるとしている。