東京大学と沖縄科学技術大学院大学は,ティラノサウルスを含む肉食恐竜の歯の微細な摩耗痕の分析から,食性の特徴を明らかにした(ニュースリリース)。
絶滅した動物が何を食べていたかの推定には,食べ物と歯が直接に触れあうことで歯の表面に形成される傷(マイクロウェア)が注目されてきた。これまでの電子顕微鏡の写真から,近年,共焦点顕微鏡を用いてマイクロウェアを三次元的に計量する「三次元マイクロウェア形状分析」が発展している。
哺乳類と異なり,爬虫類はあまり咀嚼をせず,食物との接触で形成される磨り減り面(咬耗面)が無く,餌の違いがマイクロウェアに反映されるのかは不明だったが,現生のトカゲやワニで,餌の硬さがマイクロウェアに影響する事が実証され,咬耗面のない歯をもつ肉食恐竜でも,マイクロウェアの三次元解析を行なう環境が整った。
研究グループは,三畳紀,ジュラ紀,白亜紀の代表的な肉食恐竜のマイクロウェアを比較することで,時代による肉食恐竜の生態的な違いがあったのか,そして幼体と成体を比較することで,成長段階による食性の変化があったのかを調べた。
各国の博物館で標本から歯型を採取し,独ハンブルグ大学の共焦点顕微鏡で表面のミクロの傷を観察した。100µm×100µmの視野領域で,歯の表面の起伏の三次元情報(x,y,z座標)を取得し,得られた三次元データから表面の粗さや複雑さの示標を求めた。
これらの示標を肉食恐竜の種間や幼体と成体で比較した。現生の食性がわかっているワニとの比較したところ,肉食恐竜のマイクロウェアはワニの大型個体と最も類似していたが,表面の傷の複雑さと深さは小さい傾向にあり,大型ワニの方が肉食恐竜よりも餌が硬かった可能性が示唆された。
次に肉食恐竜間で比較を行っなたところ,ヘレラサウルス,アロサウルス,ティラノサウルス類のマイクロウェアの間には顕著な違いはなく,ティラノサウルス類は他の近縁な肉食恐竜よりも骨を砕いて食べていたという仮説を支持する結果は得られなかった。
一方で,幼体と成体の肉食恐竜には違いがあり,幼体でマイクロウェアがより粗く,硬いものを食べていた可能性が高いことがわかった。幼体は小さな獲物を丸ごと嚙み砕いて食べていた,あるいは成体の食べ残しの肉を骨から剥ぎ取っていたなどの理由で,深い傷が形成されたのかもしれないという。
研究グループは,これらの結果の妥当な解釈も,肉食恐竜やワニの三次元マイクロウェア解析のデータを積み重ねることで見えてくるとしている。