工科大ら,エンドサイトーシスに新輸送経路を発見

東京工科大学,東京理科大学,豪科学技術研究所,理化学研究所は,細胞が外部から物質を取り込む現象であるエンドサイトーシスについて,新しい細胞内輸送経路の存在を明らかにした(ニュースリリース)。

細胞の外部からの栄養物質の取り込みや,細胞増殖などのシグナルを調節する機構であるエンドサイトーシスの分子メカニズムを明らかにすることは,ウイルスや細菌の感染により引き起こされる病気の治療法の開発においても重要となる。

エンドサイトーシスによって細胞に取り込まれた物質は,まず初期/選別区画に輸送され,リソソームへの分解経路もしくは細胞膜への再利用経路に選別され,新型コロナウイルスもエンドサイトーシスの機構を利用して細胞内に侵入する。

研究グループは,出芽酵母のエンドサイトーシス過程を可視化することのできる新しい蛍光分子マーカーの開発に成功し,これを用いてエンドサイトーシスされた分子が初期/選別区画へと輸送される機構や,トランスゴルジ網(ゴルジ体を経由して輸送されてきた積荷タンパク質を目的地別に選別を行う細胞内小器官)によるエンドソームの形成機構について明らかにしてきた。

しかし,初期/選別区画は非常に動的な細胞内区画であり,また生物種によってもその区画は大きく変わることから,その実態については現在まで,多くの議論があった。

研究グループは,以前に開発した出芽酵母の蛍光エンドサイトーシスマーカーを用いて,このマーカーが細胞内に取り込まれて最初に輸送される初期/選別区画を観察した。

高感度共焦点顕微鏡システムSCLIMを用いて,その微細構造を調べた結果,細胞に取り込まれた蛍光エンドサイトーシスマーカーはまず,トランスゴルジ網内に独立して存在する特定区画に取り込まれることが明らかになった。

また,取り込まれた後,細胞膜にリサイクルされる膜タンパク質も同じTlg2区画に局在することが分かった。このことは,このTlg2区画がエンドサイトーシスにより取り込まれた物質をリソソームへ輸送し分解するものと,細胞膜へリサイクリングするものとへ選別する区画であることを示唆している。

Tlg2区画は同じTGN内で分泌に関わると考えられる区画とは空間的に分離しているため,分泌に関わる区画とエンドサイトーシスの選別区画は独立した区画である可能性が示唆された。

この発見は,類似の輸送経路(区画)が哺乳類細胞や植物細胞などの異なる生物種においても存在する可能性を示唆するもの。研究グループは,選別区画への物質の輸送機構や区画内での選別機構を明らかにし,病原体の細胞への感染,および感染拡大を防ぐ方法につなげることが重要だとしている。

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