徳島大ら,バイオフィルムの成分を非標識で可視化

著者: 梅村 舞香

徳島大学,東京工業大学,理化学研究所は,超解像赤外分光イメージング技術を用いて,光合成微生物が形成する細胞の集合体(バイオフィルム)の分子成分を非標識かつ高解像度で可視化することに成功した(ニュースリリース)。

光合成を行なうバクテリアである藍(らん)藻(シアノバクテリア)は,様々な環境でバイオフィルムを形成する。藍藻バイオフィルムは藍藻自身の生存だけでなく,他の微生物のすみかや栄養源としても活用されている。

藍藻バイオフィルムは多糖を主要構成要素としつつも,タンパク質などの他の分子も共在している。しかし,これまでのイメージング技術では,分子を標識した際にバイオフィルムの構造に影響を与えるといった課題があった。

研究グループは,超解像赤外分光イメージング技術によって,試料を標識せずにバイオフィルム内の構成分子を可視化した。研究グループが開発した超解像赤外分光イメージング技術は,中赤外パルス光の吸収によって誘起される光熱効果を,中赤外光より波長が10倍程度短い可視連続光により検出することで,従来法より10倍以上高いサブマイクロメートルの空間分解能で赤外分光分析が可能。

今回,硫酸多糖の硫酸基に特有である赤外吸収信号と,藍藻に特有の自家蛍光に着目することで,バイオフィルム内のそれぞれの分子の空間的な配置を可視化した。初めに,バイオフィルム内の硫酸多糖に含まれる硫酸基が,その他のバクテリアや多糖成分とは異なる特有の赤外吸収信号を示すことを赤外吸収スペクトルから確認した。

その後,同じ領域の硫酸多糖の赤外吸収信号強度とバクテリアの自家蛍光強度を計測し,赤外吸収信号と自家蛍光の強度像からそれぞれ硫酸多糖成分とバクテリアをサブマイクロメートルの空間分解能で区別することができた。

その結果,これまでの予想と異なり,バイオフィルム内では硫酸多糖がライン状の構造を形成しており,その構造に沿って藍藻細胞が配置していることが分かった。

この成果は,ありのままのバイオフィルムの様相を直接可視化することで,その予想が正しいことを世界で初めて実証したもの。また,硫酸多糖の他にも,バイオフィルム内でタンパク質が介在し,多糖成分と相互作用しながら構造を形成していることも,イメージングにより明らかにした。

研究グループは,藍藻バイオフィルム研究にこの技術を有効活用することで,硫酸多糖と細胞や特定の分子との間の相互作用や,硫酸多糖を含む多様なEPSのバイオフィルム中における役割分担等の理解につながることが期待されるとしている。

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