東工大,レーザーでニューラルネットワーク関数実現

東京工業大学の研究グループは,シリコン基板上低消費電力半導体薄膜レーザーを作製し,駆動方法を工夫することで,人工知能における機械学習のためのニューラルネットワーク(NN)回路に広く利用される活性化関数であるReLU(Rectified Linear Unit:正規化線形ユニット)関数を光入出力で実現できることを実証した(ニュースリリース)。

人工知能の実用化にともない,低消費電力と高速稼働が求められている。光NN回路は光の速度で演算できることから,人工知能の高速化・低消費電力化が期待できる。

しかし,光NNで実現しているのは線形演算を行う一部の機能のみであることから,研究グループは,活性化関数と呼ばれる非線形関数,その中でもReLUと呼ばれる,従来の電子回路上では一般的に用いられている関数の実現に挑んだ。

この全光NN回路で用いる光ReLU関数素子の構成としては,研究グループがこれまでの研究において,低消費電力動作が可能であり,かつシリコン基板上に集積可能な半導体レーザとして提案してきた,半導体薄膜レーザーを適用した。

これを利用することにより,従来の回路より小さなエネルギーでのレーザー発振が可能となる。その駆動方法として今回,レーザー発振をしない範囲で電流を流し,さらに光を照射させることで,ReLU関数と同等の入出力特性を光でも実現するという,光と電気のハイブリッドの駆動方法を提案した。

実際に,シリコン基板上に異種材料常温活性化接合によって半導体薄膜レーザーを形成し,提案した駆動方法で実験をした結果,ReLU関数と類似の入出力特性を実現できることが明らかになった。さらに,駆動電流を変化させることで,線形処理部からの光信号の強さによって立ち上がるしきい値が,ユーザー側で自由に変更可能であることも確認した。

この素子によって実現した光ReLU関数では,数学の観点から理想的な関数形状からはずれが生じる。しかし関数形状を模して,機械学習の学習結果のシミュレーションを行なったところ,理想的な関数形状では精度が98.32%だったのに対し,光ReLU関数の形状でも98.22%という遜色ない値が得られることを確認した。

今回の実現した光ReLU関数素子は,シリコン基板上に異種材料集積技術によって作製しているため,すでに実用化されている線形処理部を持つ光NN回路と集積親和性が高い。そのため,ワンチップ全光NN回路が近い将来実現できると期待される。

研究グループは,全光NN回路をワンチップ化することで,末端のサーバや,将来的にはモバイル端末等への導入が実現する可能性があるとしている。

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