東大ら,量子スピン液体をコンピュータの中に再現

東京大学,中国北京量子信息科学研究院,早稲田大学/豊田理化学研究所は,スーパーコンピュータ上で人工ニューラルネットワークを活用した第一原理に基づく包括的な高精度な数値計算を実行し,量子スピン液体候補物質を含む,有機固体である5種類のPd(dmit)2塩の実験結果を再現することに成功した(ニュースリリース)。

電子が強い量子もつれを示す量子スピン液体は,基礎物理学的に興味深い舞台として注目されている。

近年では,その強い量子もつれを利用した量子コンピュータや省エネルギースピントロニクスデバイスなどの次世代デバイスへの応用が期待されている。そのため,量子スピン液体を示す物質探索が精力的に行なわれているが,候補物質の結晶構造の情報から量子スピン液体かどうかを判定することはコンピュータ上であっても困難だった。

研究グループは,スーパーコンピュータ上で人工ニューラルネットワークを活用した第一原理に基づく包括的な高精度な数値計算を実行し,量子スピン液体候補物質を含む,有機固体である5種類のPd(dmit)2塩の実験結果を再現することに成功した。

再現の結果,量子スピン液体となるPd(dmit)2塩では,「幾何学的フラストレーション」と呼ばれる効果が誘発する「一次元化」という創発的な機構が働き,空間的に一次元的な性格が出現するにもかかわらず,基本粒子である「スピン」が分裂した(分数化と呼ぶ)二次元的な創発粒子「スピノン」で特徴づけられ,強く量子もつれした量子スピン液体が実現していることがわかった。

フラストレーションがきっかけとなって,量子スピン同士が自己組織化的に一次元的に結びつき,量子スピン液体が出現しており,これは自己組織化的な低次元化とでも呼ぶべきものだという。つまり,この結果は,Pd(dmit)2塩では一次元性と二次元性の両面を秘めた新奇の量子スピン液体が発現していることを示しているとする。

この研究で示した長距離にわたる強い量子もつれは,量子計算の実用上重要。研究グループは,今回明らかになった量子スピン液体の出現条件や性質に関する知見が,量子コンピュータなどの量子デバイス材料設計の指針となることが期待されるという。

また開発した手法を用いて,量子スピン液体や高温超伝導体などの,量子もつれが強い量子物質の示す特異な性質の起源の解明や新奇量子物質の計算科学的探索が進むと期待されるとしている。

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