名古屋大学と旭化成は,世界で初めてUV-C帯域274nmの深紫外半導体レーザー(UV-C LD)の室温連続発振に成功した(ニュースリリース)。
深紫外半導体レーザー(またはレーザーダイオード)は,殺菌やウイルス検知,ヘルスケア,計測・解析,センシング,レーザー加工の分野で期待されている。同研究グループは,高品質AlN(窒化アルミニウム)単結晶基板と分極ドーピング法を採用し,2019年に世界で初めて室温パルス電流駆動によるUV-C帯域の深紫外半導体レーザーの発振に成功している。
一方,半導体レーザーの実用化には,電池での駆動も可能な室温連続発振が必須とされている。研究グループは,連続発振の実現のために動作電流,および動作電圧の低減に注力し,研究を進めてきた。
研究グループは,従来のUV-C LDのメサストライプの端に発生する結晶の乱れ,すなわち結晶欠陥に着目。メサストライプ端の結晶欠陥は共振器内部に延伸することで閾値電流密度を悪化させるだけでなく,電極設計に制限を与えることで駆動電圧を悪化させる。
種々の試作,解析およびモデリングを用いた多角的なアプローチによる検討の結果,結晶欠陥の発生の原因がメサストライプにかかる応力の局所集中であることを見出した。そこで,応力を制御するためメサストライプの構造を,従来の垂直型から傾斜型へと刷新し,結晶欠陥の抑制に成功した。
さらに,光学設計の改良と薄膜結晶成長条件の改善も同時に行ない,閾値電流密度を4.2kA/cm2,また閾値電圧を8.7Vと,世界最高水準まで大幅に改善した。これによりレーザー発振に必要な駆動電力を従来の1/10に低減することを可能とし,電池駆動も可能な室温連続発振を達成した。
作製した深紫外半導体レーザーのパッケージデバイスは室温直流電流での駆動において,連続発振光が明瞭に観測された。この成果はUV-C帯域の深紫外半導体レーザーが将来的に実用化しうるポテンシャルをもつことを充分に示唆する結果だとする。
研究グループは引き続き研究開発を進展させ,アプリケーション開拓を進め,2025年度を目途に製品化を目指したいとしている。