大阪公立大学,東京工業大学,放送大学らは,辰砂(α-HgS)のカイラル結晶内において,「回転する原子の運動モード(カイラルフォノン)」を発見した(ニュースリリース)。
カイラリティとは,自然界のあらゆる階層に内在する非対称性の現れであり,静的な物体のパリティ対称性の破れと定義されている。その定義は動的な運動(回転)にも拡張され,回転しながら空間伝播する真のカイラリティと,偽のカイラリティが区別されるようになった。
最近,2次元系物質において回転しているが伝播していない原子運動モード(フォノン)が予測・観測され,「カイラルフォノン」と呼ばれるようになった。回転しながら伝播する真のカイラルフォノンはいまだ観測されたことはなかった。
研究では,らせん軸をもつ3次元系カイラル結晶に着目し,α-HgS結晶を用いた円偏光ラマン散乱測定を行ない,円偏光がもつ角運動量をカイラルフォノンに転写することに成功した。また,第一原理計算結果との比較によって,今回観測されたカイラルフォノンはらせん軸に沿って伝播する(真のカイラルフォノンである)ことが判明した。カイラルフォノンの伝播方向は,原子の回転方向によって反転し,それが結晶の掌性(右手系・左手系)で逆になることを見出した。
この研究によって,ラマン散乱過程における角運動量保存則を明確に実証できた。さらにこの手法は,らせん軸をもつカイラル結晶の掌性を光学顕微鏡分解能で判定することが可能となる。
これにより,光・フォノニクスデバイスにおける,情報担体としての角運動量の移行が可能になり,スピントロニクスデバイスと組み合わせて光・フォノニクス・スピントロニクスデバイスの創成につながると期待されるとしている。