矢野経済研究所は,照明用途に使用される半導体レーザーを調査し,世界市場規模,製品アプリケーション別トレンド,関連企業動向,将来展望を明らかにした(ニュースリリース)。
それによると,2022年のレーザー照明世界市場規模(メーカー出荷ベース)は1,084万ユニット,5,897億1,000万円となっている。
半導体レーザーユニットは車載用ヘッドライト,プロジェクター,家庭用照明器具,業務用照明器具,HMD,レーザーポインターや墨出し器などその他機器(アプリケーション)に搭載されている。
アプリケーション別に内訳をみると,プロジェクターとレーザーポインター(距離計測含む)や墨出し器(回転レーザーレベラーを含む視覚的に水平,平行状況を確認する装置)を含むその他機器の割合が高いという。
プロジェクターは,コロナ禍の影響で成長率が当初想定より鈍くなるも,高輝度・低メンテナンス性など半導体レーザーのメリットを活用した製品が引き続き展開されていくと見ている。
レーザーポインターと墨出し器は半導体レーザーの直進性が活用されたアプリケーションであり,遠方照射や高出力等の半導体レーザーデバイスの特長を生かした業務用照明器具への採用(搭載)は進んでいない。これは投光器や街灯などの業務用照明は一般的に安価なパッケージであり経年使用,屋内外での環境の変化等により点灯しなくなるタイミングで機器の入れ替えとなることが一因だという。
また,半導体レーザー素子があらかじめモジュール化された状態(ユニット)で調達され,アプリケーションの製造が簡単に可能な仕組みであることが多いため,機器製造への参入企業数が多いことも業界の特徴のひとつだとしている。
注目トピックであるLi-Fiは,Light Fidelityの略称で,2011年に英国エジンバラ大学のHarald Haas教授が提唱した光無線通信技術。Li-FiはWi-Fiの光版というイメージとなり,光を利用してデータを相互に通信する。Li-Fi の特徴は高速大容量通信が可能であり,電波法に依らないため,自由に使用することができる。また,可視光の照射範囲内だけで通信が可能のため秘匿性が高く,光を遮るだけで通信の遮断ができる。
Li-Fiは専用の送信機と受信機によって通信が可能だが,近年では受信デバイス内蔵のアプリケーション(タブレットなど)も販売されている。また,スマートフォンなどには後付けのLi-Fiカバー(ユニット)を取り付けることでLi-Fi通信が可能となる。
米国で開催された「CES2022」では世界初のLi-Fi内蔵タブレットが展示され,その後一部地域で販売された。また,光源は基本的にはLEDが採用されるものの,半導体レーザーによる指向性を生かしたタイプが出てきている。
Li-Fiが普及する理由については,電波を補完する通信技術として一部ニッチな状況での利用が想定されている。国土交通省などの実証事業も実施されており,Li-Fiは自動運転における通信手段のひとつとして採用される見通しだという。
しかしながら,現段階では技術として実現可能であることが確定したのみで,法整備に関して議論が始まったばかりであり,実際にLi-Fi通信を採用した自動運転技術で道路を走行するためには5年以上かかると想定している。
また,Li-Fiは,スマートホーム/オフィスなどでは1対1や1対nの通信で利便性を高めることも可能。電波利用に制限のある医療現場やオフィス,教育施設などの業務用として展開していくことを見込む。さらに,beyond 5Gにおいては電波通信の速度・通信量では対応しきれない場合,光無線通信が基地局など通信設備の一部に活用される可能性があるという。
今後,省エネ効果とIoTやAIと組み合わせ,周辺環境に応じたスマートライティングを実現する家庭用照明器具として,半導体レーザーが採用された家庭用照明が普及する見通しだとする。家庭用照明のひとつとして注目度が高いアプリケーションにLi-Fiがあり,光無線通信が家庭内で普及していけば,LED照明代替もしくは併用により半導体レーザーユニットを搭載した照明器具の普及が加速することとなる。
レーザー照明世界市場は家庭用照明の普及拡大により数量・金額共に急成長する見込みで,その普及とともに市場はその後横這い傾向となるが,他のアプリケーションでも搭載は継続される見通しだという。2030年のレーザー照明世界市場規模は2,413万6,700ユニット,8,755億円になると予測している。