名古屋大学,日立製作所,東邦大学,日立ハイテクは,100kV時間分解電子顕微鏡を開発し,ナノ粒子における表面プラズモンの光励起緩和過程をピコ秒オーダーで観察することに成功した(ニュースリリース)。
表面プラズモンは,ナノ粒子の構成材料や形状に大きく依存することから吸収波長を制御しやすく,かつ狙った波長に強い吸収効率を有することから,光エネルギー変換材料や生体センサーなどの応用が期待されている。
そこでは光励起と緩和過程,エネルギー輸送などの過度現象を詳細に捉えることで,光応答特性の改善や高効率化の鍵を得ることができる。これまで,表面プラズモンの光応答特性は,光プローブを用いた過渡吸収分光法により研究されてきたが,その空間分解能は数マイクロメートル以上と大きく,分析可能なエネルギー領域は近赤外から可視領域で,紫外線を越える短い波長の情報は得られていなかった。
そこで研究グループは,数百meVから数keVまでのエネルギー分光が可能な電子エネルギー損失分光を用いて,プラズモン緩和過程の測定の実現を目指した。そして,十分な透過能をもつ透過電子顕微鏡において,フェムト秒パルスレーザーをサンプルに照射し,これをピコ秒パルス電子線により分析する計測器を開発した。
生物医学用100kV透過電子顕微鏡に,NEA表面を有する半導体を用いたレーザー駆動型フォトカソード電子銃を搭載することで,ピコ秒パルス電子線を用いた超高速ナノ計測を実現した。また,試料への励起レーザー照射を可能にし,エネルギー分光装置を備えることで,電子エネルギー損失分光の時間分解計測を実施した。
ナノ粒子には,化学合成により生成された金ナノ三角形粒子を用いて,波長780nmの150フェムト秒パルスレーザーを試料励起に,80keVエネルギーの8.5ピコ秒パルス電子線をプローブとして時間分解計測を実施した。
この結果,表面プラズモン励起とバルクプラズモン励起に起因するエネルギー損失ピークに,光励起に依存したエネルギー損失強度の減衰,ピークエネルギーのシフト,ピーク幅の変化を観測することに成功した。
これらは,光励起によりナノ粒子内部の電子温度および格子温度の昇温と降温に起因した変化であり,電子-フォノン散乱による約7.8ピコ秒の緩和時間,フォノン-フォノン散乱による100ピコ秒以上の長い緩和時間の測定に成功した。
この成果は,プラズモニクス材料を用いた光エネルギー変換過程,熱電変換材料の局所的な熱緩和ナノ計測への展開が期待されるもの。研究グループは,これまでプローブにパルスレーザーを用いた分析手法では難しい空間分解能を越える小さな構造材料の個々の時間変化を捉えるツールとなり得るとしている。