東京大学の研究グループは,アモルファス物質に繰り返し荷重を与えることにより起きる疲労破壊の物理機構を,流体力学の基礎方程式の理論解析・数値シミュレーションにより示した(ニュースリリース)。
疲労破壊は,繰り返し荷重を受けた材料が徐々に局所的かつ構造的な損傷を受け,最終的に破壊に至る現象のことをさす。アモルファス材料の降伏・破壊は,高分子のような柔らかい材料からガラスのような硬い材料まで広く観察される。
このような損傷を引き起こす最小のひずみ振幅(臨界ひずみ振幅)は,単純な負荷のもとでの材料が降伏するひずみよりもはるかに小さいことが知られている。このことから,疲労破壊の閾値は連続荷重下での単純破壊の閾値よりもはるかに小さいと考えられてきた。
研究グループは,アモルファス物質の疲労破壊現象について,流体力学の基礎方程式と物質の時間的な変化(ダイナミクス)を記述する構成方程式をもとに,物質の粘弾性的性質が物質の密度に依存することを考慮し,理論解析と方程式を数値的に解く方法を組み合わせることで,繰り返し単純ずり変形下での破壊挙動について研究を行なった。
この研究の特徴は,密度,変形(速度),応力の複雑な結合を考慮し,アモルファス物質の周期的な変形の下での疲労破壊の物理機構を研究した点にある。この結果,一般に考えられているものとは異なり,臨界ひずみ振幅,すなわち元の形状には戻れない変形(不可逆変形)の始まりは,疲労破壊と単純破壊で同じであることが示された。
これまで,単純破壊において不可逆変形の始まりを正確に測定することは実験上の困難から残念ながら実現されていない。今後その実験的な検出がなされ,この予測が実験的に立証されれば,長時間の疲労破壊実験を行わずとも,一回の単純変形による破壊の臨界ひずみの測定により,疲労破壊の臨界ひずみ振幅を予測できる可能性がある。そのため研究グループは,アモルファス材料設計への応用が期待されるとしている。