分子研ら,アモルファスの熱伝導率の予測技術開発

分子科学研究所,東京大学,青山学院大学,岡山大学は,トポロジカルデータ解析を活用することで,アモルファスの熱伝導率を予測する技術を開発した(ニュースリリース)。

アモルファスは太陽電池を始め幅広く応用されているが,結晶とは異なり,決まった構造が繰り返される長距離秩序はない。しかし完全にランダムな構造とも異なり,複数の原子間の相互作用がもたらすナノメートル程度のスケールでの中距離秩序があると考えられている。

この規則性とランダムの中間に位置する構造が,アモルファスの物理的性質とどのように関係しているのかは長年の謎となっている。そこで,アモルファスの構造の特徴を中距離秩序も含めて抽出し,物性シミュレーションと結びつけることが求められてきた。

今回,研究グループは,複雑な構造と物理的性質の関係の典型例としてアモルファスシリコンでの熱伝導率に着目。アモルファスシリコンは結晶シリコンに比べてはるかに低い熱伝導率を持つが,どのような構造が熱伝導率を決めているのかと,中距離秩序との関係性は不明だった。

そこで,トポロジカルデータ解析手法の一つ,パーシステントホモロジーが複雑な構造の持つマルチスケールな特徴を抽出できることに着目し,それを機械学習・物性シミュレーションと結びつけることに取り組んだ。その結果,熱伝導率を高精度に予測するだけでなく,それを決定しているミクロな構造や中距離秩序との関係を明らかにした。

研究ではまず,分子動力学法によりアモルファスシリコンのモデル構造を多数作成した。そして,得られた様々な構造での熱伝導率とパーシステントホモロジーを計算した。パーシステントホモロジーは二次元のヒストグラムとして可視化され,これをパーシステント図と呼ぶ。この図を数値データに変換することで,機械学習や統計解析に利用できるようにした。

次に,パーシステント図を変換した数値データを入力,熱伝導率が出力となるようなリッジ回帰モデルを作成し,学習させることで,構造から熱伝導率を高精度に予測できるようになった。

また,熱伝導率の高低を決めているミクロな構造を,主成分分析とパーシステント図の逆解析から求めた。その結果,シリコン原子が作る五角形の構造の特徴が熱伝導率に強く相関していることがわかったという。

この五角形は中距離秩序を構成する最小の要素であり,これが大きく歪んでできた四角形が存在すると,原子間に働く力にも不均一性が強く現れて,熱伝導率が低下することが判明した。

今回の研究手法は,アモルファスの力学特性やダイナミクスにも応用できる。研究グループは,合金などその他の乱れた構造に対する,数理科学を応用した新たな解析方法としての汎用化が期待されるとする。また,産業応用上望ましい性質を持つ,高性能なアモルファス材料の物質設計に適応することも期待できるとしている。

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