東工大,高性能シリコン太陽電池製造手法を安全化

東京工業大学の研究グループは,シリコンヘテロ接合(SHJ)太陽電池用の水素化アモルファスシリコン(a-Si:H)を,強い爆発性を有するSiH4ガスを使用せずに,高速かつ低ダメージで形成する手法を確立した(ニュースリリース)。

SHJ太陽電池の高効率化には,シリコンウエハー表面に高品質なa-Si:H層を形成することにより,ウエハー表面でのキャリア再結合を抑制することが重要であるが,既存手法では爆発性・毒性を持つSiH4ガスを用いる必要があり,コスト増の一因となっている。

研究グループは,対向ターゲットスパッタ(FTS)法と呼ばれる手法を用いることにより,十分なキャリア再結合抑制効果を有したa-Si:H膜を,強い爆発性・毒性を有するガスを使用せずに,実用的な製膜速度でシリコンウエハー上に形成することに成功した。

ドーピング量の少ないシリコンのスパッタにはRF電源を用いたRFスパッタが一般的に用いられるが,DC電源を用いたDCスパッタを用いたことによりこの成果が実現された。なお,DC電源の使用により装置構成が簡略化されるという利点も存在する。

SHJ太陽電池はシリコンウエハー表面のキャリア再結合はウエハー直上に存在するi-a-Si:H(アンドープa-Si:H)によって抑制される。そこで,シリコンウエハーの両面にi-a-Si:Hのみを形成した試料を用いてウエハー表面でのキャリア再結合抑制効果を評価した。なお,a-Si:H膜形成後に窒素中で200℃の熱処理を行なっている。

ウエハー表面でのキャリア再結合抑制効果の指標となる実効キャリアライフタイムは,厚さ42nmのi-a-Si:Hを用いた場合,10msを超える値を示した。また,太陽電池を形成した場合の出力電圧の目安であるiVocの値は726mVと高い値を示した。

実際の太陽電池で用いる5nmのi-a-Si:Hを用いた場合でもiVocは717mVと高い値を保つことが明らかとなった。さらに,将来的に重要となるであろう薄型シリコンウエハーに5nmのi-a-Si:Hを形成した試料においてはiVocは730mVであった。

また,一般的なスパッタ法において,製膜速度1.8nm/min以上ではプラズマダメージにより良好なキャリア再結合抑制効果が得られていなかったが,この研究においては31nm/minという高速で製膜してもキャリア再結合抑制効果が損なわれないことを見出した。

研究グループは,今後,大面積製膜の実証が進めば,SHJ太陽電池やペロブスカイト/シリコンタンデム太陽電池の低コストプロセスの実現が期待できるとしている。

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