大阪大学,浜松ホトニクス,情報通信研究機構(NICT)は,最大12チャンネルの超伝導ナノワイア単一光子検出器(SNSPD)システムを試作,フィールド実証を行ない,国産化への道筋をつけた(ニュースリリース)。
誤り耐性型汎用量子コンピュータの実現には,システムを1つ1つのモジュールに分割して,それらをネットワーク状に接続してネットワーク型量子コンピュータとすることが重要と考えられている。
ネットワーク化には量子コンピュータから光子を飛ばして量子情報を運び,量子テレポーテーションを使って量子コンピュータに量子情報を転送する。この量子テレポーテーションのために,高効率,低暗計数かつ多チャンネルの超伝導光子検出器が必要となる。
このようなハイエンドな超伝導光子検出器は,いくつかの海外のスタートアップで製品化も実現しており,国内ではNICTを中心に開発が行なわれてきた。
今回,ムーンショット目標6のプロジェクトにおいて,最大12チャンネルの超伝導ナノワイア単一光子検出素子を実装可能なSNSPDシステムを浜松ホトニクスがNICTの協力を得て作製し,そのSNSPDシステムの11チャンネルそれぞれにおいて量子もつれ光子の検出を確認し,実際の量子ネットワーク実験で利用可能なことを大阪大学において検証した。
開発したSNSPDの11チャンネルの動作確認を行なう有効な方法として,量子ネットワークで配信される量子もつれ光子対の評価実験を行なった。量子もつれから得られる情報は,量子力学特有の性質をもち,古典的には真似できないため,確実に量子力学の性質を捉えていることがわかる。
大阪大学が開発したタンデム型type-II疑似位相整合PPLN導波路を利用した自発的パラメトリック下方変換(SPDC)により,偏光量子もつれ光子対発生を行なう。この際,励起光は780nmであり,発生した2つの光子は光通信波長帯である1540nmと1582nmになる。
量子もつれ状態を確認するために,2つの光子の偏光を判別し,SNSPDにより光子検出を行なう。この光子検出の情報を元に量子状態トモグラフィを行なうと,2つの光子の状態を記述する密度行列が再現され,量子もつれの有無を判別することができる。
11チャンネルのSNSPDを使って,10回の量子状態トモグラフィを行なった結果,どのチャンネルでも強い量子もつれが観測され,SNSPDが十分に量子力学の性質を実証できることを確認した。
今回の成果によって,ハイエンドなSNSPDシステムの国産化が見えてきた。量子コンピュータだけでなく,量子暗号通信,量子ネットワーク,量子センシングなど,量子2.0技術での活用が期待されるとしている。