東京農工大学と産業技術総合研究所は,フェムト秒レーザー照射中のガラス表面の光学顕微画像から,周期が約200nmのナノ構造体が形成されていることを判別できる技術を開発した(ニュースリリース)。
ガラスの表面に,直接ナノ構造体を作ることができれば,取り扱い易くて高機能な光学素子の実現が期待できる。しかし,ナノメートルサイズの加工を行なうためには,これまでは半導体プロセスを必要とし,製作工程が複雑という課題があった。
一方,フェムト秒レーザー光を複数パルス照射することによって,ガラス表面にナノメートルサイズの周期構造体を直接形成できる現象が報告されている。しかし,この加工現象はガラスの表面状態やレーザーの照射条件に大きく依存するため,ナノ構造の安定形成は難しく,産業応用にはインプロセスでのナノ周期構造形成のモニタリング技術が必要だった。
研究グループは,フェムト秒レーザー光を合成石英表面に対物レンズで集光し,合成石英を一方向に一定の速度で動かした。同時に,波長660nmと850nmの発光ダイオードをそれぞれ同軸落射,透過照明光源として使用し,レーザー照射表面の波長ごとの顕微画像を2台のCMOSカメラで取得した。
レーザー未照射領域の顕微画像と比較することにより,レーザー照射領域の相対反射率と相対透過率を求めた。加工後の合成石英基板の表面と断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し,レーザー加工されていた部分の反射率,透過率と比較した。
その結果,反射率が減少し,透過率が上昇した領域では,周期が約200nm,深さが約1μmの直線状のナノ周期構造が形成されていた。一方,反射率と透過率ともに減少した領域では表面が深く掘れたのみで,ナノ周期構造は形成されていなかった。
この結果は,フェムト秒レーザーによるナノ周期構造形成を光学的にインプロセスモニタリングできたことを示しており,ナノ構造形成の品質保証への応用が期待されるもの。
今回開発した技術と,リアルタイムレーザーパラメータ制御を組み合わせることで,ナノ構造の安定形成が可能となる。これにより,ガラス表面にフェムト秒レーザーパルスを照射するだけで数100nmの周期の溝を均一に形成できるため,複雑なプロセスや薬剤が不要な微細加工技術の実現が期待されるという。
また,レーザー光を照射する位置を変えるだけで加工部分を移動できるため,加工材料の大きさに制限がなく,メートルサイズの領域へのナノ加工も容易。このような大面積領域にナノメートルサイズの微細加工を行える技術は他にはなく,研究グループは,様々な表面微細構造や光学素子の作製に応用が期待されるとしている。