産業技術総合研究所(産総研)は,防曇性が長期間持続し,傷が素早く自己修復する透明皮膜を簡便に作製する手法を開発した(ニュースリリース)。
ガラスやプラスチックなどの透明基材は,表面に水滴が形成されると,光の散乱による“曇り”が発生(曇化)する。曇化は,ガラスの視認性の低下,センサーや太陽光パネルなどの効率低下の原因になるため,曇化を抑制する技術 (防曇処理) の開発が望まれている。
これまでの防曇処理には,紫外線照射によって表面が超親水化する親水性素材を表面に塗布する手法が提案されている。しかし,これらの多くは物理的な損傷によって機能が失われてしまう。
今回開発した技術は,いずれも市販品である,ポリビニルピロリドン,人工粘土粒子,アミノ基含有水系シランカップリング剤を水中で同時に混ぜて得られる前駆溶液を基材上にスピンコートし,加熱・乾燥するだけでナノコンポジット皮膜を作製することができる。
ポリビニルピロリドンの分子量やシランカップリング剤の添加量などは任意に変更でき,例えば,シランカップリング剤の添加量を1wt%程度にした組成で作製したナノコンポジットは,可視光を90%以上透過できる優れた透明性を示すため,各種の無機・有機基材に対し,意匠性を損なうことなく成膜することが可能で密着性も良好だとする。
さらに,過酷な環境下でも優れた防曇性を発現する。最適組成のナノコンポジット皮膜を被覆したスライドガラスは,冷却後,高湿度の空気や加湿器から出る高湿度空気に暴露しても全く曇らないという。
これは,皮膜が水蒸気を瞬時に吸収し,曇化の原因となる水滴の形成を抑えるため。この優れた防曇性は,スライドガラスを高温高湿度の空気に暴露し続けたり,高湿度の環境下に静置し続けたりした場合でも,長期間(7日間)持続するとする。
さらに,このナノコンポジット皮膜は,高湿度環境に放置するだけで物理的な傷を自己修復する。従来の皮膜(膜厚:約700nm)では,傷(最大幅で約30μm)の自己修復に24~48時間かかっていたが,今回開発したコンポジット皮膜(膜厚:約700nm)では,わずか3時間で元通りになったという。
この自己修復性は,①空気中からの水分の吸収による皮膜の膨潤・表面移動,②接触界面における各成分の相互拡散,③膜中の相互作用の再形成により生じたと推測されるという。また,この自己修復性が繰り返し持続することや,落砂試験によるふぞろいな傷に対しても有効であることを確認しているという。
研究グループは今後,企業と連携して,開発したナノコンポジット皮膜の硬度・耐久性・密着性などの機能を強化し,連携後3年以内の実用化を目指すとしている。