産総研,親水性と滑落性を兼ねた透明皮膜を開発

産業技術総合研究所(産総研)は,水になじみやすい性質(親水性)と水滴が流れ落ちやすい性質(滑落性)という相反する機能を兼ね備えた,透明な皮膜を作製する手法を開発した(ニュースリリース)。

親水性表面は様々な有用な特性をもたらす一方,付着した水滴の滑落性は良くない。これは,基材表面の親水性が高くなればなるほど(静的接触角が小さくなればなるほど),水分子とその表面の相互作用が強くなり,水滴が滑落しにくくなるため。

そのため,高い親水性と滑落性を兼ね備えたコーティング法が必要とされてきたが,このような相反する性質を一つの表面に共存させる表面処理法は実現していなかった。

研究グループは,アルキル鎖を含むシランカップリング剤とテトラアルコキシシランをゾルーゲル法により結合させた透明な皮膜を開発しており,この皮膜には,水だけでなくさまざまな油や低表面張力液体をスムーズに滑落させる性質があることを見いだしてきた。

しかし,この技術を熱交換器のフィンへの表面処理に応用すると,得られる表面は水滴の滑落性に優れるものの,親水性が低い(水滴の静的接触角:約100°)ため,水滴ブリッジを形成してしまう。また,親水性官能基を含むシランカップリング剤を用いて同様の手法で皮膜を形成しても,エアコン用フィンが求められる性能の指標値(水滴の静的接触角:約30°以下,滑落角:13°以下(10 μL))の実現は困難だった。

今回,原料を見直し,高い親水性と水滴の滑落性を兼ね備えたコーティング法の開発に取り組んだ。具体的には,1つの親水性官能基の両末端に反応性官能基としてトリアルコキシシリル基を有する双頭型のシランカップリング剤を候補として選んだ。

ゾルーゲル法によって,この双頭型のシランカップリング剤とテトラアルコキシシランを最適量で混合し,皮膜表面の親水性官能基の密度を下げ,親水性官能基が自由に動ける表面状態にしたところ,接触角ヒステリシス(前進接触角/後退接触角の差)の小さい親水性皮膜(水滴の静的接触角:約37°,接触角ヒステリシス:4°)が得られ,基材を10°傾けるだけで10 μLの水滴が滑落することを確認した。

さらに,この皮膜をアルカリや酸溶液に所定時間浸漬したところ親水性がさらに高まり(水滴の静的接触角:15°),水滴がさらに滑落しやすくなることを見いだした(0.5μLの水滴が19°,10μLの水滴が4°で滑落)。この処理により,エアコン用フィン材に求められる性能の指標値よりも,静的接触角,滑落角を飛躍的に小さくすることが可能となった。

研究グループは今後,機能発現メカニズムの解明を進めながら,企業に連携を呼びかけ,連携後3年以内の実用化を目指すとしている。

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