北海道大学とSCREENホールディングスは,半導体洗浄時のナノ構造物の倒壊挙動を明らかにした(ニュースリリース)。
近年,半導体の微細化のペースが鈍化している。その理由の一つに半導体洗浄工程におけるナノ構造物の倒壊現象が挙げられる。半導体の洗浄工程では液体を使用するため,洗浄後は必ずウエハーを乾燥する必要があるが,この乾燥工程で,半導体のナノ構造物が倒壊する現象が問題になっている。
ナノ構造物が倒壊する原因は,液体の表面張力であることが分かっている。液体は表面張力により表面積を小さくしようとする性質を持っており,ナノ構造物に付着した液体が乾燥する際に,液体が持つ表面張力が影響を及ぼすことにより,ナノ構造物は倒壊する。
これまでナノ構造物の倒壊は,洗浄液を低表面張力の液体である2-プロパノール(IPA)に置換してからウエハーを乾燥することで防がれてきた。しかし,7nmや5nmといったシングルナノオーダーの製造プロセスでは,IPAを使った洗浄でもその倒壊を防ぐことが難しくなってきており,表面張力が小さい液体で洗浄・乾燥する方法には限界が近づいている。
研究グループは,ナノ構造物が液体の蒸発時に倒壊する挙動を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察する手法を開発した。TEMで試料を観察するためには,試料を高真空環境である試料室に入れる必要がある。液体を観察する場合は電子ビームを透過しやすい特殊な薄膜で構成された溶液セルの中に液体を封入し,試料室の高真空環境と液体を薄膜で隔てた状態で観察する。
今回,乾燥過程で壊れるほど繊細な半導体基板表面に形成したナノ構造物を集積イオンビーム装置により切り出して,液体(IPA)と共に溶液セル内に封入することで,液体中のナノ構造物を観察した。
溶液セル内にナノ構造物(シリコンナノピラー)とIPAを封入した後,TEMで観察しながらIPAを蒸発させることで,ナノピラーが倒壊する挙動を観察することに成功し,ナノピラーの倒壊は,ナノピラー間に残る水によりナノピラー同士が付着し乾燥時に先端部に残る液だまりがナノピラー同士を接着させる,二段階のプロセスで起こることが分かった。
研究グループは,開発した観察手法は,従来では見ることができなかった複雑なナノ構造物を液中で観察することができるため,半導体製造プロセスの課題の解決に役立つことが期待されるとしている。