京都大学,神戸大学,兵庫県立大学らは,先進的な大気環境の分析技術を樹木の計測へと応用することにより,湿地性樹木の一つであるハンノキの幹から大量のメタンが放出されていることを突き止めた(ニュースリリース)。
地球温暖化にも強く影響する⼤気中のメタン濃度は,⼈為的な排出のみならず,⾃然起源の放出による影響も受ける。⾃然の中で最⼤の発⽣源は湿地だが,近年,湿地に⾃⽣する樹⽊からメタンが放出されているという研究発表が急増している。
そこで研究グループは,湿地性樹⽊の⼀つであるハンノキを対象に実験を⾏なった。ハンノキは⽇本国内では北海道から九州まで,国外では東アジア地域に分布し,⽔気を多く含む湿地のような環境でも⾃⽣できる。
ハンノキからメタンガスが出ているのかを調べるため,⼤気環境分析に⽤いられる超⾼感度な半導体レーザーセンサーを用いた。通常,メタンの⼤気環境分析は,ガスクロマトグラフィ(GC)が⽤いられるが,GC法は⼈⼿による操作を基本としており,また,森林のような野外環境での安定的な動作制御には困難を伴う。
⼀⽅,半導体レーザーセンサーはリアルタイムな計測を無⼈で安定的に⾏なえるという利点があるため,昼夜を問わず,天候にも左右されず,メタンガスの放出量を調べることができる。
その結果,複数のハンノキ個体の幹からメタンが放出されていることが分かった。その放出量は,夏に多く,冬に少ないという季節変動を⽰すこともわかった。しかも,春から秋に
かけてはメタンの放出量が昼に多く,夜に少なくなるという,明瞭な⽇変化パターンがあることも突き⽌めた。
続いて,ハンノキからメタンガスが放出されるメカニズムを探った。⼟壌中で微⽣物が作り出したメタンを根が取り込み,根から幹へとメタンが輸送される仕組みがあるのかどうかを,採取した細根を光学顕微鏡とクライオ⾛査型電⼦顕微鏡(cryo-SEM)を⽤いて観察した。
その結果,細根の細胞および細胞組織の間に多数の“隙間”を発⾒した。この隙間は,メタンを通す道筋の⼀つになっていると考えられる。⼀般に植物には,道管とよばれる養⽔分を運ぶパイプが存在するが,今回発⾒した隙間は,道管のように養⽔分で満たされておらず,ガスの輸送に適した空洞になっていることが分かった。
さらに,ハンノキの幹から放出されるメタンの量が,明瞭な⽇変化パターンを⽰す理由を調べたところ,ハンノキの幹から放出されるメタンの輸送経路として,細胞組織の隙間のみならず,道管を運ばれる樹液流の何らかの関与が⽰唆された。
研究グループはこの成果が,⾃然起源として最⼤のメタン発⽣源である湿地には,「⽣きた樹⽊」というメタン放出量の評価が難しい存在があることを⽰すものだとしている。