東北大学の研究グループは,自動車などの車体表面の風圧分布と周囲の風向を数点の圧力センサーの情報から推定するための基礎技術およびそのセンサーを設置する場所を最適化する技術を開発した(ニュースリリース)。
走行中の自動車周りには絶えず複雑な風の流れが形成される。特に,対向車とのすれ違いや追い越し,突風にさらされた場合には非常に激しい風圧変化が起こる。それにより,車体が不安定になり,最悪の場合,横転事故につながる可能性がある。
車体表面の風圧および車体周りの風向を瞬時に把握することができれば,安定走行にむけた適切な回復操作が可能だが,走行中の車体表面上の圧力分布を得る手段は,多数の半導体圧力センサーを車体へ埋込む以外になく,市販車への実装は困難だった。
研究グループは,周囲の圧力に応じて発光強度が変化する機能性分子センサーを混合した特殊な塗料(感圧塗料)による計測実験と,低次元モデルを用いた圧縮センシング手法,そしてセンシング位置最適化手法を開発・組み合わせることで,車体表面上の数点に設置した圧力センサーの情報から車体表面全体の風圧分布や風向を高精度に推定する技術を開発した。
感圧塗料は,周囲の圧力に応じて発光強度が変化する色素(機能性分子センサー)とそれを物体表面に固定するためのポリマーからなる。物体表面に塗装した感圧塗料に色素を励起するための紫外線を照射し,色素が発する蛍光や燐光を画像計測することで圧力の面分布を計測できる。
この技術は,様々な風向における風圧分布の計測を感圧塗料計測により事前に行ない,PODモード分解により風向の変化に伴う風圧分布変化の特徴抽出と低次元モデル化を行なう。次に,抽出した風圧変化の特徴をもとに風圧分布を効率的に表現する位置を特定し,センシング位置の最適化を行なう。
実際の運用時には,事前に構築した風圧分布の低次元モデルと最適化したセンシング位置に設置した半導体圧力センサーの情報を用いることで,風圧分布の推定を行なう。この独自技術により,平均誤差2.6%という高い精度で風圧分布を推定することを可能にした。
また,車体と周囲の流れの角度推定に有効なセンシング位置での圧力情報を用いることにより,平均誤差 3.4%で風向を推定できることもわかった。
開発した技術により,突風やすれ違いなどにより生じる車体表面上の複雑な風圧分布を瞬時に推定し,その情報を基に想定される空気力に対して適切な運転制御を行なうことで,横転などの重大事故を回避できるようになると期待されるという。
研究グループは,自動運転で隊列走行するトラックや乗用車に対して,車体の空気抵抗が小さくなるように隊列の形態を最適化することで,燃費の向上などにつながる可能性もあるとしている。