東北大学と仙台医療センターは,低侵襲かつ高精度な生体深部温度センシングの要素技術の提案およびその実証に成功した(ニュースリリース)。
生体深部の低侵襲および位置選択的な温度センシング技術の確立が切望されており,研究グループは残光に基づく温度計測法の提案とその原理実証を進めてきた。
残光は,暗所でも発光が持続する残光体と呼ばれる物質で観察される現象。残光体は,光照射により励起した電子がトラップサイトに捕獲されることで光エネルギーを一時的に貯蔵できる。そしてトラップされた電子が熱的に徐々に解放されて,正孔と再結合することで持続した発光(残光)が得られる。
研究グループは,残光体の温度が上昇すると,その残光強度の減少(減衰)が急になることに着目し,ナノサイズの残光体をプローブとして体内に導入し,外部から残光を検出することで生体内部の温度を計測する温度センシング法を提案している。
しかしながら,報告された残光減衰の測定は一回きりであり,その測定時間は数百秒を要する。加えて,残光性を有するプローブとし用いた,高い生体親和性を有するジルコニア(ZrO2)の温度センシングの性能は未知のままだった。
残光体からは残光以外に輝尽発光という現象で光を取り出すことができる。トラップ電子は熱的に徐々に開放されてゆっくりと残光を発するが,近赤外光(NIR)を照射すると光エネルギーを短時間で強制的に開放する。この現象を輝尽発光と呼ぶ。
研究グループは,これまでの課題を克服するため,パルスNIRレーザー照射による残光性ZrO2プローブを用いた繰り返し計測を試みた。前回の報告では残光減衰は一回しか計測できなかったが,研究ではパルスでNIR光を短時間照射することで輝尽発光を引き起こし,それによって残光強度を増強することで100回以上繰り返し計測可能であることを実証した。
また,今回の研究では,パルスNIR照射における計測時間の大幅な短縮,そして繰り返しによる精度向上の可能性を見出すとともに,パルスNIR照射による生体温度計測が可能であることも実証した。
波長およそ650~1000nmは生体組織において光透過性が良好な領域であり,研究のNIRレーザーにより,人体の外部からパルス照射することで位置選択的かつ任意のタイミングでの温度計測が可能となる。
また,熱ルミネッセンス法に基づいた活性化エネルギーを調査することでZrO2の温度計測感度を評価した結果,既往の温度計測用の発光物質と比較して一桁程度大きく,優れたプローブ性能が実証された。
研究グループは,低侵襲かつ高精度な生体温度の時空間的温度計測が期待されるとしている。