情報通信研究機構(NICT)は,間欠運転をする光格子時計を参照して標準時を生成することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
日本標準時は2006年以来,水素メーザ原子時計と約18台のセシウム原子時計を組み合わせることで,安定な時刻を発生してきたが,これらのマイクロ波領域の商用原子時計は,多数台の平均を取っても発振周波数が15桁目で変動する。
その結果,数か月という期間でUTCとの時刻差が10ナノ秒以上に広がってしまうことが起こり,そのたびにBIPMから半月以上遅れて公表される時刻差データを参照してマニュアルで日本標準時の周波数を調整する必要があった。
一方,NICTが開発したストロンチウム光格子時計は,ストロンチウム原子の光学遷移に安定化された光を生成する。この遷移の固有周波数は,過去10年近くの間,NICTを含む世界中の多数の機関で測定されてきた結果,相対不確かさ1.9×10-16の範囲内で,429 228 004 229 872.99 Hzであることが分かっている。
そして,この極めて小さい周波数不確かさを持つ光は,光周波数コムを利用して精度を劣化させずにマイクロ波の電気信号に変換することができ,これを日本標準時のマイクロ波出力周波数と比べることで,日本標準時の刻み幅がどの程度ずれているかを16桁の精度で正確に計測することができる。
NICTでは,2021年6月から週1回以上の頻度でこのストロンチウム光格子時計による標準時の刻み幅の妥当性評価を行ない,2021年8月から週1,2回,標準時の周波数調整を継続的に実施することにより,標準時のUTCに対する変動を抑えることができた。
近年,光時計の進展は目覚ましく,2030年を目途に,秒の定義を現在のセシウム原子のマイクロ波領域の遷移から原子の光領域にある遷移周波数によるものに変更するという「秒の再定義」が、時刻・周波数標準を扱う国際的な委員会で検討されている。光時計によって標準時の精度を維持することは,秒の再定義に向けて満たされることが望ましい条件の一つであり,今回の成果は,これを満たす初の実証例だという。
NICTでは,日本標準時として常時生成することが期待されるこの高い精度の時刻や周波数を,次世代の通信技術(Beyond 5G/6G)や相対論による測地技術等に活用する方法を開発し,提案していくとしている。