三重大学,茨城大学,神戸大学,日本電子らは,ニュージーランドの温泉に棲息する紅色硫黄細菌の一種Allochromatium tepidum(アロクロマチウム・テピダム)の「膜タンパク質コア光捕集反応中心複合体の立体構造」をクライオ電子顕微鏡により可視化することに成功した(ニュースリリース)。
コア光捕集反応中心複合体(LH1-RC)は,光合成細菌が光エネルギーを集め,電子変換し,伝達することを可能にしている膜タンパク質。アロクロマチウム・テピダムのLH1-RCは,他の種とは異なり,Caイオンの結合が局在するものの高い温度でも光のエネルギー変換を高効率で行なえることが知られている。
Caイオンを除くと高い温度での安定性が減ることも分かっていたが,Caイオンがどうやって温度安定性を高めているのか,Caイオンがなぜ一部のLH1にしか結合しないのかといったメカニズムについては未解明だった。
これまで立体構造が報告されているCaイオン結合型LH1-RCは,16ペアあるLH1すべてにCaイオンが結合しており,Caイオンが結合しないLH1-RCとの比較だけでは,双方が進化的に離れていることもあり,選択的にCaイオンを結合できる仕組みや特徴的なアミノ酸配列などは謎につつまれていた。
今回のコア光捕集複合体(LH1)は,複数のアイソフォームと呼ばれる異なる遺伝子由来のタンパク質を含んで形成する珍しい例。このおかげで,アロクロマチウム・テピダムのLH1-RCでは,Caイオン選択的な結合は計6箇所でのみ起こり,特定のアイソフォームにだけ存在するアミノ酸配列部分で起きていることが明らかになり,これまでの研究結果をうまく説明することができた。
このような複数のアイソフォームを含むLH1-RCの立体構造の決定は従来使用されていたX線結晶構造解析では難しく,クライオ電子顕微鏡を用いる方法で2020年に研究グループが立体構造を最初に発表して以来,3つ目の報告例だという。
発見したCaイオン結合に必須だと考えているアミノ酸配列の特徴は,Caイオンの結合性が実験的に確認されていない光合成細菌のLH1-RCにもみられることから,予想以上に広い菌種で採用されている可能性があることがわかったとする。
また,Caイオンの結合により,アロクロマチウム・テピダムのLH1-RCの熱安定性が向上していることが立体構造の面からも理解することがでた。研究グループはこの研究により,Caイオンを活用した高効率な太陽光エネルギー利用への貢献が期待されるとしている。