大阪大学,大阪公立大学,大阪市立大学は,超流動ヘリウム中の量子渦を,半導体シリコンナノ粒子を用いて可視化することに成功した(ニュースリリース)。
自然界には風や川などに代表される様々な流れが存在する。この流れの多くは,実は複雑に乱れた「乱流」であることが分かっている。乱流は多数の渦が絡み合った状態と考えることもできるが,通常の流体中では渦の厳密な定義は難しく,取り扱いが複雑なことが研究の妨げとなっていた。
近年,この乱流現象に全く別の角度から迫りうる研究対象として量子渦が着目されてきた。量子渦は,その量子的な性質のために明確な定義が可能であり,非常に安定な構造として実験科学とも相性が良い。しかし,超流動ヘリウム中の量子渦は非常に細い(0.1nmほど)ため,そのままでは観測できないという大きな課題があった。
研究では,レーザーアブレーションを用いて微粒子を作製する技術を,極低温の液体である超流動ヘリウムに導入することで,世界で初めて半導体のシリコンナノ粒子を用いて量子渦を可視化することに成功した。
そして,レーザーアブレーションによって超流動ヘリウム中で作製された大量のシリコンナノ粒子が,量子渦の中心軸上に捕捉され整列することを明らかにした。また,ナノ粒子群の様子を観察することで,量子渦の再結合現象を捉えることに成功した。
再結合現象は,2本の量子渦が接触した瞬間に,互いの繋ぎ変えが起き,その後,急速に反発し遠ざかっていく。実験的に観察された再結合の振る舞いは,理論予測と一致することが分かり,研究で可視化している対象が確かに量子渦であることを明確に示した。
この成果により,多様な材料を用いて量子渦が可視化できることが示された。特に,これまで用いられてきた固体水素微粒子とは異なり,光との相互作用が強い半導体微粒子が利用可能であることから,光を用いた量子渦研究への新しい道筋が拓かれるという。
量子渦に捕捉された微粒子群は量子渦と強く相互作用し合うため,研究グループは,例えば微粒子を媒介として,光を用いて量子渦を捕捉・自由に操作するような研究が可能になるのではないかとしている。