情報通信研究機構(NICT)は,NICTが開発したストロンチウム光格子時計を用いて,「現行の「秒の定義」を実現するセシウム一次周波数標準よりも光時計の方が協定世界時の1秒の長さをより正確に評価できる」ことを実証した(ニュースリリース)。
国際的な標準時刻として広く使われている協定世界時(UTC)の1秒の長さを「秒の定義」に基づくように正確に保つには,UTCの歩度(時刻の刻み幅)を世界中の高精度な原子時計で校正することが必要。これまで長らくこの役割を果たしてきたのは,現在の「秒の定義」を実現する(実際の信号として利用可能にする)セシウム一次周波数標準だった。
一方,近年、原子の光学遷移を利用した原子時計(光時計)が目覚ましい発展を遂げており,セシウムのマイクロ波遷移を基にした「秒」から原子の光学遷移に基づいた「秒」への「秒の再定義」が議論され始めている。
「秒の再定義」を実行可能にする条件のひとつとして,「ひと月当たり少なくとも3台の光時計が,2×10-16以下の不確かさで定期的にUTCの歩度校正に貢献すること」,つまり,「光時計がセシウム一次周波数標準に代わって,UTCの歩度を正確に維持すること」が求められている。
NICTが開発したストロンチウム光格子時計(NICT-Sr1)は,2018年11月にパリ天文台に続いて光時計としては世界で二例目となる二次周波数標準の認定を受け,以来,断続的ではあるが昨年の初夏までの約2年半にわたり,光時計として実質唯一,UTCの歩度を遅延なく校正(無遅延校正)してきた。
また,2021年11月には,各国のマイクロ波標準とNICT-Sr1を含む3台の光時計を合わせてこれまでで最多の16台の原子時計がUTCの歩度を校正した。これはUTCが世界各国の協力により堅牢に維持されることにつながるだけでなく,「秒の再定義」実現の条件も満たしている。この成果についてはUTCを決定する国際度量衡局(BIPM)はホームページに掲載した。
さらにNICTでは,原子時計の国際相互比較結果を大きく左右する衛星仲介高精度周波数比較の不確かさ等を可能な限り抑制した結果,NICT-Sr1が他の一次及び二次周波数標準を含めて,歴代最小の計測不確かさ1.9×10-16でUTCの歩度を校正した。この高精度校正は「「秒」が原子の光学遷移に再定義された暁には,光時計によるUTCの校正精度が現行の精度を上回る」ことを初めて実証したもの。
NICTでは,今後もUTCの維持および高精度化に努めるとともに,「秒の再定義」実現において重要な役割を果たしていくとしている。