北陸先端科学技術大学院大学(JAIST),米オークリッジ国立研究所,英ケンブリッジ大学は,物質の電子レベルの精密シミュレーションにおいて,根本的効率化を実現する方法を開発した(ニュースリリース)。
近年,材料の特性を正確にシミュレーション予見して,材料開発に役立てるような研究が盛んに行なわれている。
最も正確な予見方法として,物質中での電子がとりうる状態の可能性を,シミュレーションで大量発生させてサンプリングする方法が知られている。
サンプリングされたバラバラな値から,背後にある法則性を正確に見出すには,多数のサンプルが「完全にランダムでえこひいきがない」ようにサンプリングされている必要があるが,計算機で発生させたサンプリング点は,互いの”しがらみ”がある程度持続してしまい,完全なランダムにはならない。このしがらみの作用を除去しようとすると,例えば「サンプリング20個分で,ようやく完全ランダム点の1つ分がとれる」といった効率の悪さが発生する。
「サンプリング20個分で,ようやく完全ランダム点の1つ分」と例示したのは,「サンプルを20個分程度吐き出して,ようやく最初の点の記憶が消失し,しがらみがなくなってランダム性が確保される」ということを述べている。この「しがらみの消失度合い」を,これまで正確に測ることができなかったため,「20個もあれば十分だろう」と安全策をとって正確な見積もりとしていた。
今回研究グループは,この「しがらみの消失度合い」を正確に見積もる方法を解明した。「念の為,サンプリング20個分の間隔でとっていたが,5個分も間隔があれば,しがらみは消失する」といったことが正確にわかるようになった。
その結果,「サンプリング20個分で,ようやく完全ランダム点の1つ分がとれる」としていたものを,「サンプリング20個分あれば,完全ランダム点は4つ分とれる」という効率化を図ることが可能になった。(「20個」,「5個」といったものはあくまでもの例示)
こうした工夫により,同じ正確さを達成するために必要となるサンプリング数を,例えば1/4に減らすことができるため,シミュレーションの効率化・高速化につながる。研究グループは,コンピュータ自体のスピード向上に頼らない根本的な高速化を実現しうる,基礎研究の賜物といえる成果だとしている。