千葉大学,京都大学,大阪大学は,半導体のCs4PbBr6結晶内部に埋め込まれたCsPbBr3ナノ構造から高効率なアンチストークス発光を観測することに成功した(ニュースリリース)。
光による冷却は,原子気体のほか固体でも研究されている。⼊射光よりも⾼いエネルギーの光を放出する過程(アンチストークス発光)を利⽤し,⾼効率にアンチストークス発光が⽣じれば,光を当てるほど物質はエネルギーを失い,冷却される。
この冷却は,希⼟類イオンを添加した結晶やイオンにおいて既に実現されており,90K(=-183℃)程度への冷却が報告されている。しかし,希⼟類系は原理的な冷却限界が存在し,理論的には10K(=-263℃)程度までの冷却が可能とされている半導体を⽤いたアンチストークス光学冷却が期待されている。
アンチストークス光学冷却には,ほぼ100%の発光量⼦効率,および⼤きな電⼦-フォノン相互作⽤が必要。研究ではこの条件を満たす半導体としてハロゲン化⾦属ペロブスカイトの⼀種であるCsPbBr3がCs4PbBr6結晶中に分散された構造(CsPbBr3/Cs4PbBr6)が有望と考えた。CsPbBr3/Cs4PbBr6は97%以上という発光効率が報告されているほか,周囲の安定な構造により,⼤気暴露や光励起による劣化を克服できる。
研究ではまず,CsPbBr3/Cs4PbBr6が継続的な光照射に対して極めて安定であることを⽰した。また,光学冷却に必要な発光量⼦効率を97%と⾒積もった。これまでに報告されているCsPbBr3/Cs4PbBr6の発光量⼦効率は97%以上であり,原理的には半導体光学冷却が可能。
さらに低温でも測定を⾏ない,70K(=-203℃)という低温でもアンチストークス発光を観測した。これは,希⼟類系での光学冷却における最低到達温度の90Kより低く,発光効率さえ⼗分に⾼ければ,これまでより低温への光学冷却の可能性がある。
また,アンチストークス発光には⼤きな電⼦-フォノン相互作⽤が必要だが,この相互作⽤が⼤きすぎると,電⼦は結晶格⼦を⼤きく歪めることでエネルギーを失い,アンチストークス発光が起きにくくなる。CsPbBr3/Cs4PbBr6は電⼦-フォノン相互作⽤の⼤きさが絶妙であり,光学冷却に有望な材料系であることを⽰した。
実⽤的な光学冷却を⽬指すには,Cs4PbBr6中に埋め込まれているCsPbBr3ナノ構造の割合を⾼くすることが必要。研究グループは今後,半導体光学冷却の実現に挑むとともに,応⽤の可能性も探っていきたいとしている。