東大ら,世界最高の冷却性能を示す固体冷媒を開発

東京大学,アイシン,筑波大学,大阪大学,モルシスは,圧力印加による断熱冷却(および断熱加熱温度)が世界最高の固体冷媒の開発に成功した(ニュースリリース)。

現在,発電所で発電される電力の20%は,エアコンや冷蔵庫における冷却に使用されている。ほとんどの冷却技術はガス冷媒の膨張圧縮を利用しているが,ガス冷媒は地球温暖化の原因となるなど環境に悪影響を与えうることが知られている。

持続可能な開発目標SDGsやグリーントランスフォーメーション(GX)の観点から,代替材料として,熱量効果を示す固体冷媒が注目されている。中でも,圧力を印加したり開放したりすることで熱量効果を発揮する圧力熱量(バロカロリック)効果材料が注目されている。

研究グループは,新しい無機固体冷媒であるルビジウムシアノ架橋マンガン-鉄-コバルト無機化合物(RbMnFeCoプルシアンブルー)が,圧力を印加したり開放したりすることで,温度が上昇および下降する効果(バロカロリック効果)を示し,340MPaで74K(57℃から−17℃),560MPaで85K(88℃から3℃)という大きな可逆的断熱温度変化(|∆Tad,rev|)を示すことを見出した。

固相-固相転移冷媒の熱量効果の中でこの|∆Tad,rev|値は世界最大。可逆冷媒容量(RCrev)は26000J kg−1,温度窓(Tspan,rev)は142Kだった。この物質は低圧でもバロカロリック効果を示し,例えば90MPaでも|∆Tad,rev|=21Kという値を示す。さらに,熱電対を用いた実測装置を用いて,圧力印加することで+44Kという大きな温度変化を観測した。

この方法は,冷却と加熱は1ステップで大きな温度差を発生させることができ,冷媒を段階的に組み合わせた複雑なシステムを要するカスケード法などを用いる必要がない。具体的には,例えば,100℃から25℃への瞬間冷却や,25℃から−50℃への瞬間凍結を実現することができる。

RbMnFeCoプルシアンブルーは大量生産のための材料コストもリーズナブル。新しい応用例としては,圧電基板にこの材料を貼り付けることで,コンパクトな固体冷媒を実現でき,デバイスの過熱を防止できる可能性もあるとする。

研究グループは,この研究は,バロカロリック効果材料の分野における新たな可能性を開くものであり,新しい固体冷媒の開発に貢献するとしている。

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