京大,有機薄膜太陽電池の発電機構を解明

京都大学の研究グループは,半導体ポリマーと非フラーレン型電子アクセプター(NFA)を用いた有機薄膜太陽電池(OSC)の発電メカニズムを明らかにした(ニュースリリース)。

次世代太陽電池として注目されているOSCの実用化には,発電効率の向上が最重要課題となっている。

従来のOSCでは半導体ポリマーとフラーレン誘導体とのエネルギー準位差(オフセット)を駆動力として光電変換していた。一方,近年はNFAを用いることにより,オフセットが小さくても光電変換できるOSCの作製が可能になっている。しかし,その機構については十分に理解されていなかった。

研究では半導体ポリマーにPM6という有機化合物,NFAにY6という有機化合物を用いた。PM6とY6を用いたOSCはオフセットが0.1eVしかなくても15%以上の光電変換効率を示すが,その発電機構は不明な点が多く,更なる効率改善の指針が分かっていなかった。

研究では,PM6とY6のブレンド膜に生成した界面電荷移動状態(CT状態)が自由電荷に解離する様子を見分けるため,過渡吸収データに含まれる微弱な過渡電場吸収信号の強度を「ものさし」として使い,CT状態が空間的に解離して自由電荷になる様子を追跡した。

その結果,PM6とY6のブレンド膜に生成したCT状態が自由電荷に解離するには10ピコ秒程度を要することが分かった。従来のフラーレン誘導体を用いたOSCは,CT状態が自由電荷になるまでの時間は0.1ピコ秒程度で,このような超高速の反応により高効率に発電していると考えられてきた。光電変換の反応が遅いという結果は,PM6とY6のブレンド膜では従来とは異なる機構で発電していることを示す。

次にY6の基底状態褪色(GSB)スペクトルの時間変化を観測したところ,時間と共に電荷がより結晶性の高い領域に移動していることがわかった。これは,非晶状態のY6よりも結晶状態のY6の方が,エネルギー準位が深く,電子は結晶相へ移動することで安定化するため。

GSBピークの時間変化を過渡電場吸収信号の時間変化と比較すると,両者はよく一致した。OSCの発電層はp型半導体とn型半導体がナノメートルスケールで相分離した構造をしており,p型半導体とn型半導体の相分離界面近傍では材料の結晶性が低下している。そのため,PM6とY6のブレンド膜では結晶性の低い相分離界面で発生した電荷が,よりエネルギー的に安定な結晶性の高い領域を求めて移動することで発電していることが分かった。

今回,発電に理想的な相分離構造を形成することが重要となることがわかった。また研究グループは,非晶状態と結晶状態とでエネルギー準位が大きく異なる材料を探索することで,OSCの材料としての有望株を効率的にスクリーニングできるとしている。

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