電気通信大学の研究グループは,世界最高の量子ドット密度を実現し,低内部損失で高利得の量子ドットレーザーを開発した(ニュースリリース)。
半導体量子ドットは,持続的な高度情報化社会を支える革新的な光電子デバイスの構成要素として期待されている。そのためには高密度で高均一な量子ドットの作製技術の確立が不可欠であり,これまでさまざまな作製技術が開発されてきた。
半導体量子ドットの自己形成法として,StranskiKrastanov(SK)成長モードを利用したヘテロエピタキシャル成長がよく用いられる。SK成長モードでは,基板結晶とエピタキシャル成長結晶との格子不整合量による格子歪エネルギーと結晶安定化のエネルギーバランスにより,2次元成長から3次元成長へと遷移する。その成長過程において,転位を抑制した良質な3次元島構造を量子ドットとして自然形成させる。
しかし,SK成長モードによる量子ドット構造の自己形成においては,基板表面上にランダムに3次元の島成長が起こるために,一般には基板面内における3次元島構造は不均一になる。つまり,1次元の量子井戸構造のように,成長時間による制御だけではアンサンブル量子ドットの全体における高均一化は極めて困難だった。
従来の量子ドットレーザーの活性層には,量子ドットの面密度がそれほど高くないために,量子ドット層を5層以上積層した構造を導入していた。これに対して研究グループは,分子線エピタキシー(MBE)により,GaAsSb/GaAs層上の面内超高密度InAs量子ドット層を2層だけ活性層に導入したリッジ導波路型の量子ドットレーザーを試作した。
従来の量子ドットレーザーは共振器長が1000μm程度以上と長く,しかも高反射率(HR)のコーティング膜を施した低共振器損失の構造で作製されていた。今回開発した面内超高密度量子ドットレーザーは,HR膜のない,短い共振器長(200μm)においても室温でレーザー発振を確認した。
室温において,注入電流がしきい電流の65mAを超えた時に,波長1020nmのレーザー発振を確認した。短共振器長の高ミラー損失にも関わらず,室温で安定したレーザー発振が得られたのは,高い量子ドット密度(総ドット密度1×1012cm-2)により高利得が達成されたためだと考えられるという。
また,面内超高密度の量子ドット層であることから,注入キャリアの量子ドットへの取り込み率が高く,かつ量子ドット間の面内結合によって低エネルギー量子ドットへのキャリア注入の効率が高くなることも期待されるという。
研究グループは,量子ドットのさらなる高均一化を進めることで,超低消費電力化,超高速変調の量子ドットレーザーが実現できるとしている。