横浜国立大学,静岡大学,東京工業大学,産業技術総合研究所,豪スイバーン工科大学は,分子を誘電体層にもつ光吸収メタ表面を構築し,分子振動由来の熱放射の増強に成功。これにより,従来の熱放射デバイスをはるかに超える超狭帯域赤外放射材料を確立した(ニュースリリース)。
中赤外は分子指紋領域と呼ばれ,どのような物質がどれだけ存在するかの情報が含まれている。
より高感度・高精度に分子振動を検出するためには,光源の放射帯域を狭帯域化する必要がある。従来はバンドパスフィルターやレーザーなどが使用されてきたが,より安価で小型なデバイスの実現が望まれていた。
金属薄膜―誘電体―金属ナノ構造からなる材料は,光吸収メタ表面あるいはプラズモン完全吸収帯と呼ばれ,金属薄膜とナノ構造が特定の波長の光と共鳴して光を吸収する。この時,誘電体層に強い電場の局在が発生する。
この局在電場中に分子が存在すると光-分子結合が発生し,例えば光吸収の増強などが起こる。また,Kirchhoffの熱放射の法則によれば,光吸収効率と熱放射効率は等価であることを示していることから,光吸収の増強は熱放射の増強へとつながる。
今回誘電体層に設置する分子として,耐熱性高分子であるポリイミドを金の上に製膜し,その上部に半導体加工でナノ構造を形成した。ポリイミドは中赤外の波長域に狭帯域で特徴的な分子固有のスペクトルを示す。
メタ表面の共鳴スペクトルとポリイミドの吸収の重なりが大きくなると,ポリイミド由来の吸収ピークが増大していき,100倍以上の吸収増強を観測した。また,二つのスペクトルの重なりが大きくなると強結合と呼ばれる現象が発現し,新たな分子固有のスペクトルが形成されることを見出した。
そこで,このメタ表面を加熱して放射スペクトルを計測した。その結果,反射吸収スペクトルと良い一致を示す放射スペクトルが得られた。この特性として,±60度の範囲でほぼ一定の放射強度を示し,250度の高温まで分子層も安定して存在し長時間にわたって一定の放射が得られることを示すことに成功した。
この成果により,誘電体層に分子を用いない従来のメタ表面と比較して1/10以下の線幅,90を超えるQ値,100%近い放射効率,250度での高温安定動作を併せ持つ熱放射デバイスを実現した。分子固有の放射であり,同一の官能基を持つ分子を検出する際に最適な分光的性質を有するという。
研究グループはこの成果について,高感度な中赤外光源を実現できるほか,放射冷却機能を増強して,電力を用いずに室内環境を冷却するRadiative cooling にも適応できるとしている。