富士経済は,材料価格高騰による生産コストの上昇が企業利益を圧迫し,業界再編の加速が予想される太陽電池の世界市場を調査した(ニュースリリース)。
太陽電池の国内市場(年度:4月~3月)の太陽電池モジュール(新型・次世代太陽電池は,色素増感,有機薄膜,ペロブスカイト,GaAsを対象)とした調査によると,2020年度は,上半期に新型コロナウイルス感染症の影響で大きく減少し,下半期には住宅向けが回復に向かったものの,材料価格高騰による非住宅向けでの導入先延ばしなどがみられ,市場は縮小したという。
2021年度は,材料価格高騰に伴う値上げにより金額ベースで拡大し,前年度比7.9%増を見込む。しかし,2022年度以降は非住宅用のFIT案件の受注残と新規需要獲得の減少により,縮小が続くとみている。
中長期的には,世界的な生産拡大に伴う低価格化に加え,電力料金の上昇とカーボンニュートラル対応ニーズの高まりを背景として,2030年度頃に縮小は下げ止まり,市場は拡大に向かうとみる。
なお,太陽電池をセルから製造・開発する国内メーカーはほとんどおらず,海外から安価なセルを調達してモジュールに組み立てるか,モジュールのOEM供給を受けるメーカーが中心となっている。今後は日本の住宅事情に合わせたハウスメーカーとの共同開発なども徐々に減っていき,海外メーカーのシェアが増加するとみている。
新型・次世代太陽電池は,色素増感が商用化されているが,IoTセンサー電源やビーコンなどで使用され,デバイス1個あたりの搭載容量が非常に小さく,実績は僅少となっている。有機薄膜,ペロブスカイト,GaAsはまだ商用化されていないが,有機薄膜は海外では市場が形成されている。
ペロブスカイトは商用化まで時間を要するものの,結晶シリコンでの設置が難しい場所での採用により一定の市場を形成すると期待する。GaAsは車載用太陽電池としてEV向けで導入が期待されるという。新型・次世代太陽電池の2035年度の市場は86億円を予測し,太陽電池市場の5.7%を占めるとみている。
太陽電池の世界市場(年次:1月~12月)は,世界的な地球温暖化に対する関心の高まりや,各国による再生可能エネルギーの導入率を高める政策が後押しとなり,市場は拡大を続けているという。なお,2020年は新型コロナ流行の影響により,太陽電池の生産に必要な原材料や機器の供給を停止する国もみられたという。
2021年は,出力ベースでは前年比44.8%増を見込む。金額ベースでは,ガラスやポリシリコンといった材料価格や輸送費の高騰などにより太陽電池の出荷価格が上昇していることから,市場は10兆円超えを見込む。しかし,生産コストの上昇を出荷価格に転嫁しきれない企業が多く,各社の利益が大きく圧迫されており,業界再編が加速するとみる。
今後もカーボンニュートラルの実現に向けて,太陽光発電システムの設置が進み,2035年は出力ベースで500GW近くまで伸びると予測する。一方,金額ベースでは材料価格高騰の落ち着きと,太陽電池の生産規模拡大に伴う生産コストの低下により,2035年には10兆1,661億円を予測している。