電気通信大学と独結晶成長研究所(IKZ)などは,波長2µm帯のツリウムを添加した超短パルス固体レーザーにおいて,世界最短となる41fsのパルス発生に成功した(ニュースリリース)。
波長2µm超のレーザー光を発生する方法として,これまで0.8µm帯のチタンサファイア(Ti3+:Al2O3)レーザー光や1µm帯のイッテルビウム(Yb)レーザー光を非線形波長変換する手法が多く用いられてきた。
一方で,複雑な非線形波長変換が不要なツリウム(Tm)レーザーやホルミウム(Ho)レーザー,エルビウム(Er)レーザー,クロム(Cr2+)遷移金属レーザーなどは,高効率かつ高出力な直接発生ができるため,特にその超短パルス化の研究が盛んにされているが,一般的に,超短パルスの幅は使用するレーザー結晶の利得帯域幅に依存するため,より短いパルスを得るためには,できるだけ広帯域の利得をもつレーザー結晶が必要になる。
Tm添加レーザーはレーザーダイオードによる直接励起が可能であり,とりわけ高効率かつ高出力なレーザー動作に向いていると言われるが,得られる超短パルス幅は従来,100fs秒以上に制限されていた。
近年では,2種以上の物質を混ぜて一つの均一な結晶をつくる混晶によって広帯域の利得を得る新規のレーザー結晶が開発され,これによって100fs秒以下の超短パルスを発生させたという報告もあるが,混晶はレーザーの熱機械特性を悪化させてしまうという欠点がある。
研究では,複合利得媒質という複数の異種利得媒質を同一の共振器内で同時に使用し,それぞれの利得帯域を線形に加算することで,熱機械特性を悪化させずに単一の媒質を使う場合よりも広帯域な利得を得る手法を用いた。
例えば,Tm:Sc2O3(酸化スカンジウム)と/Tm:Lu2O3(酸化ルテチウム)を同時に利用した複合利得場質では,二つの利得帯域が加算され,単一の媒質を用いた場合に比べ,はるかに広帯域な利得を実現した。その結果,100fs以下の超短パルスの発生を可能にした。
今回,単一の利得媒質の限界を超えた波長2µm帯の超短パルス固体レーザーにおいて,これまで報告されている中で最短となる41fsのパルス発生に成功した。また,共振器内での非線形ラマン散乱によるものと思われるスペクトル拡大も確認し,これをより精密に制御できれば,パルスを複数に分割した30fsのサブパルスの発生も可能なことが分かったという。
研究グループは複合利得媒質技術が,共振器内の非線形光学や既存のレーザー増幅器,単一レーザー媒質の限界を超えた新しいレーザーの開発につながるとしている。