日本大学,量子科学技術研究開発機構,北京航天航空大は,強い磁場を持つ天体(例えば、ブラックホールのジェットや,中性子星の表面など)における電子のシンクロトロン放射で,ガンマ線渦と呼ばれる渦状の形状を持つガンマ線が主に放射されていることを量子力学理論の計算によって明らかにした(ニュースリリース)。
天体観測によって,強いガンマ線/X線がガンマ線バーストやX線パルサーから飛来することが分かっている。
これらのガンマ線等の発生機構として,非常に強い磁場中でらせん運動を行なう電子からのシンクロトロン放射が有力と考えられていた。しかし,宇宙に存在する磁場の強さは,人工的に作れる磁場の強さより遥かに強いため実験的に再現できず,また理論研究も完全には進んでいない。そのため,宇宙の超強磁場中の現象はまだよく分かっていなかった。
一方,近年レーザー科学分野で,光渦と呼ばれる特殊な形状の光を作り出し,様々な応用研究が進んでいる。強い磁場中において電子のシンクロトロン放射で光渦が生成されることが古典電磁気学理論によって示唆されていた。そのため,研究では量子力学理論によって,強い磁場中におけるシンクロトロン放射で生成されるガンマ線の性質を,量子力学理論を用いて解き明かすアプローチを試みた。
その結果,ガンマ線バースト等が発生するような強い磁場中のシンクロトロン放射では,渦状の構造を持つガンマ線(ガンマ線渦)が放出されるガンマ線/X線の主成分であることが分かった。さらに磁場が強くなれば強くなるほど,ガンマ線渦が占める割合も大きくなることが分かった。
先行する研究によって,ガンマ線渦と原子核と反応する確率や生成物は,渦状の構造を持たない通常のガンマ線と原子核の反応とは異なると理論的に予想されている。この予想と今回の研究結果と照らし合わせると,強い磁場を伴うガンマ線バーストで生成された元素は,磁場が弱い場合に生成された元素とは異なることが予想される。
研究グループは,このようなガンマ線渦が放出され物質と反応した痕跡は,隕石に含まれる元素の分析によって発見される可能性があるとする。また,新しいガンマ線検出器が搭載された人工衛星が将来宇宙空間に打ち上げられた時に,ガンマ線バーストの中のガンマ線渦が直接観測されることが期待されるとしている。