千葉大学と京都工芸繊維大学は,光の伝播をスローモーション動画で記録できる技術を,従来と比較して55万倍高速にコンピューターシミュレーション可能な計算アルゴリズムの開発に成功した(ニュースリリース)。
超短パルスレーザーを利用する最先端技術のさらなる発展のためには,レーザーから発せられた光が伝播する様子を精緻に観察,評価できる技術の確立が求められている。
光の伝播を精緻に表現するには,光の時間的な振る舞いと空間的な振る舞いの双方を逐次的かつ精密に計算する必要がある。これまでの技術は,スローモーション動画から再現される光の振る舞いに時空間歪みが含まれており,光の伝播の様子を忠実に再現できていなかった。
また,膨大な計算時間を要するため,コンピューターシミュレーションはほとんどなされておらず,時空間歪みなく光の振る舞いを再現することには至っていなかった。さらに,従来の計算アルゴリズムでは,光の回折を数値計算する際に必要な足し合わせの計算量は莫大な時間を要していた。
通常の光の回折を数値計算する際に必要な足し合わせの計算は,高速フーリエ変換で処理が可能だが,光の伝播をスローモーション動画で記録できる技術における光の回折の数値計算には利用できないと考えられていた。
今回開発した計算アルゴリズムに基づいて,光の伝播をスローモーション動画で記録できる技術のコンピューターシミュレーションを行なった結果,光の情報を4,096×4,096画素の画像で表現した場合において,従来の計算アルゴリズムでは約19,000秒(約5.3時間)を要していたのに対し,開発した計算アルゴリズムでは0.034秒しか必要とせず,従来の約55万倍の高速化を達成した。
さらに,コンピューターシミュレーションで得られたスローモーション動画を,光学実験により得られたものと比較した結果,時空間歪みも含めて両者はよく一致した。
研究では,光が通る経路の長さ(光路長)に基づいて計算条件を決定することで,光の回折を高速フーリエ変換に基づいて数値計算する手法を,光の伝播をスローモーション動画で記録できる技術へ適用できることを見いだし,光の時間的な情報を考慮する点と高速な数値計算を可能にする点の両方を同時に満たすことを初めて可能にした。
提案した計算アルゴリズムは,実験で得られたスローモーション動画の解析,評価を従来よりも格段に効率化できるだけでなく,スローモーション動画に生じている時空間歪みの
影響を除去するアルゴリズムの開発へもつながるもの。研究グループは今後,より複雑な状況における光の伝播にも対応にしたいとしている。