名大,AI応用溶液成長法で6インチSiC基板作製

名古屋大学の研究グループは,直径6インチのSiC単結晶基板を,高品質な結晶成長が可能である「溶液成長法」を用いて作製することに,世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

現在のパワー半導体の主流はSiで作製されているが,Siの物性値に起因し,モーター駆動制御時に一定の割合で熱エネルギーが発生し,CO2排出量の増加の原因となる。

モーター駆動用パワー半導体をSiからSiCに置き換えることにより,この熱エネルギーの大幅な削減が可能となり,2030年で1億4000万トン,2050年で2億8000万トンのCO2排出削減効果が見込まれるという。

現在,昇華法で作製されたSiCパワー半導体用基板が社会実装されているが,基板が高価かつ結晶欠陥密度が高いという問題がある。結果としてSiCパワー半導体デバイスが高価かつ低信頼性となり,市場拡大に踏み切れていない。

研究グループの溶液成長法は,昇華法より1桁以上も低欠陥密度のSiC単結晶を2017年に実現している。しかし,結晶サイズが10mm角程度と小径だった。結晶サイズが大きければ,低コスト化により社会実装が加速される。

現在市販されている基板は,4incから6inchにするのに約5年かかっている。昇華法では温度差が結晶成長の駆動力と なるため,原理的に大口径化につれ,結晶内の温度差が大きくなり,結果として,大口径化につれて結晶欠陥が多くなる傾向にあり,大口径化と低欠陥密度化の両立が難しい。

一方,溶液法は,結晶成長の駆動力が炭素濃度差であるため,結晶内の温度が均一な状態で成長でき,高品質を維持したまま大口径化が可能。しかしながら,制御パラメータが非常に多く,実験的に最適値を求めながら大口径化する方法では時間がかかりすぎる。

そこで研究グループは,AI技術を応用したプロセスインフォマティクスを用いて,コンピューター内に実際の結晶成長を疑似的に実現する装置を構築した(デジタルツイン)。これを用いることで,数百万回レベルの試行をコンピューター内で短時間でできるようになり,遺伝的アルゴリズムなどの最適化手法を用いることで,条件を素早く求めることができるようになった。

結果として,3inchから6inchまでの口径拡大を昇華法の10年程度に対して約1年実現し,溶液成長法において世界で初めて6inchの結晶を実現した。さらに,8inch単結晶基板の開発に取り組んでおり,現在,7inch弱の結晶を実現している。

研究グループは今後,名古屋大学発ベンチャーのUJ-Crystalと社会実装に向けた開発を共同で行なうとしている。

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