農工大ら,化粧品の皮膚への浸透評価系を確立

東京農工大学と化粧品原料商社のマツモト交商は,化粧品製剤中に含まれる機能性成分の皮膚モデルへの浸透性を蛍光物質などで標識することなく,直接的に観察する評価系を確立した(ニュースリリース)。

皮膚は外界にさらされた組織であり,外部からの異物の侵入や体内からの水分蒸散を防ぐ重要なバリア機能を担っている。

それにより,化粧品などを皮膚の外から適用しても,十分量を皮膚に浸透させることは困難とされる。化粧品中の成分がどの程度皮膚に浸透したかを評価するためには,これまでは検出感度の高い蛍光物質などで実際の成分を代替したり,標識したりすることで評価をしてきたが,実際に配合される成分を直接検出することは困難だった。

ラマン散乱による物質特異的なシグナルの検出を利用して,成分を直接検出する技術も開発されてきているが,皮膚中の成分の検出においては,皮膚由来の成分に起因するノイズのシグナルによって高感度での検出に限界があった。

研究では,波形整形パルスを用いた位相変調誘導ラマン散乱(PM-SRS)顕微鏡の技術を応用する事で,従来のラマン顕微鏡よりも高い感度で化粧品中の成分を非標識検出することを可能にした。

皮膚モデルとカフェイン水溶液のラマン散乱スペクトルを,従来のラマン散乱法と本研究の位相変調誘導ラマン散乱(PM-SRS)法とで測定した結果を比較したところ,従来の測定法では,測定対象物質であるカフェイン固有の信号以外にも皮膚モデルや水溶液から発生する背景信号が検出され,その結果,目的信号と背景信号との比率が悪くなった。

それに対して,開発したPM-SRS法では,皮膚モデルや水溶液からの背景信号が大きく抑制され,測定対象物質に対する高い感度が得られた。さらに,皮膚モデルの表面に塗布したカフェイン分子が時間経過とともに,皮膚の内部に浸透していく様子を可視化した。

この可視化は,非標識・非接触・非破壊で観測できるという特長を持つラマン散乱顕微鏡において,背景信号を抑制し目的信号のみが取り出せるPM-SRS法によって初めて可能になった。

研究グループは,これにより様々な成分が配合される化粧品製剤を塗布した場合にも,機能性成分であるカフェインの皮膚モデルへの浸透性を測定することができることを確認したという。

今後は,この評価技術を活用して,より皮膚への浸透性の高い化粧品製剤や原料の開発を目指す。また,このPM-SRS法は,化粧品の機能性成分以外にも,医薬部外品あるいは医薬品の薬剤分子に適用でき,生命科学・獣医学・医学など広範な分野における活用が期待されるとしている。

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