日本電信電話(NTT)と情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII)は,10万個のDOPOネットワークからなる超大規模コヒーレントイジングマシン(CIM)を実現した(ニュースリリース)。
現代コンピュータ技術を支えるCMOS電子回路の微細化技術が限界に近づく現在,物理現象を用いてデジタルコンピュータが苦手とする特定の問題を効率よく解く計算機の研究が盛んに行なわれている。
特に,システムやネットワークの最適化に関連する組合せ最適化問題を,相互作用するスピン群の理論モデル(イジングモデル)の最低エネルギーを求める問題に変換し,これをスピンの挙動を模擬する物理システムを用いた実験で解く「イジング型計算機」が注目されている。
縮退光パラメトリック発振器(degenerate optical parametric oscillator:DOPO)と呼ばれる,位相基準に対し0またはπの位相のみで発振する特殊な光発振器を用いてスピンを模擬するイジング型計算機であるCIMは,常温で動作可能という特長を持つ。
今回共同研究グループは,1kmの光ファイバリング中で1ナノ秒の時間間隔で2048個のDOPOパルスを発生し,測定・フィードバックと呼ばれる光・電気ハイブリッド手法で2048パルスの全結合を実現するCIMを2016年に発表した。
このCIM装置を用いて,2000要素の組合せ最適化問題の一問題を解き,CPU上で実装された焼きなまし法(Simulated annealing:SA)よりも高速に同じ精度の解が得られることを確認したが,高速化の度合いは数十倍程度に限られていた。
研究では,CIMの光システムと測定・フィードバック回路の飛躍的大規模化を行ない,100,512個のDOPOの全結合を可能とするCIMを構築した。これにより,最大10万スピン,100億結合のイジングモデルを実装可能な,物理システムに基づく世界最大級のイジング型計算機を実現した。
この10万スピンCIMを用いて10万要素の全結合グラフの最大カット問題の解探索を行なったところ,CPU上に実装した標準的なSAよりも約1000倍の速さで同じ精度の解を得た。また,DOPOを発振閾値付近で動作させた際には,SAと比較して,高い解精度を維持しつつ様々なスピン状態を幅広く取ることができることを確認したという。
研究グループは,創薬の候補物質探索や機械学習などのサンプリング問題への適用,また,NTTで研究開発を進める計算システム「LASOLV」の応用を開拓するとしている。