岡山大学,東京大学,大阪大学は,網膜神経細胞死を抑制する効果がある光電変換色素 「NK5962」を静脈注射することによって,効果を発揮する十分量の眼球内濃度が得られることを発見した(ニュースリリース)。
網膜色素変性などの進行性変性疾患では,進行をゆっくりさせて,現在ある視力や視野を少しでも長い間,維持するのが最良の治療となる。しかし,このような薬物はなかった。
岡山大学は,光電変換色素薄膜型人工網膜(OURePTM)の研究を行なっており,「NK5962」はその部材となる。この人工網膜を半年間,網膜変性ラットの眼球網膜下に植込んだ試験で,人工網膜に接する網膜組織では神経細胞死が抑制されていることに気づいた。そこで光電変換色素「NK-5962」自体を網膜変性ラットの眼球硝子体に注射してみると,網膜神経細胞死が抑制されることが明らかになった。
これまでの研究データを使って,培養網膜細胞を使った試験で 「NK-5962」の50%阻害濃度を計算すると,「NK-5962」をラット眼球の硝子体に注射した場合の50%効果濃度とほぼ一致した。これらの計算に基づき,試験管内で薬物体内動態を推測するADME試験を行ない,その結果に基づいて,ラットに経口投与する量,静脈注射する量を決定し,「NK5962」を実際にラットに投与して血液中および眼球内濃度を測定した。
一方,「NK-5962」を点眼した場合の眼球内濃度も測定した。その結果,経口投与や点眼では眼球内に十分量の「NK-5962」は移行しなかったが,静脈注射による投与の場合は硝子体内注射した場合と同じくらいの「NK5962」が眼球内に移行していた。
研究グループは今後,剤型を工夫して内服や点眼でも眼球内に移行しやすい「NK-5962」製剤の開発を目指す。「NK-5962」はすべての生物学的安全性試験で毒性はなく,その観点からは有望な薬物だとしている。
また,岡山大学の研究グループは,機能性色素「NK-4」に,網膜視細胞死を抑制する神経保護作用があることも発見している。