名市大ら,シリコン材料に量子もつれ状態を発見

名古屋市立大学,中央大学,日本原子力研究開発機構,高エネルギー加速器研究機構は,シリコンナノ結晶の表面に結合した2個の水素が,安定した「量子もつれ」状態になることを発見した(ニュースリリース)。

量子コンピューターなどで注目される「量子もつれ」を生成して制御するには,量子情報の基本単位である「量子ビット」を大量に作製することの困難さや,1K以下の極低温を維持する必要があること,超高純度の材料を使用する必要があることなど,多くの工学的な障壁があった。

今回研究所グループは,「中性子非弾性散乱法2」と呼ばれる手法を用いて,シリコン表面に結合した水素の振動状態を観測し,2個の水素が「量子もつれ」状態にある事実を明らかにした。

この「量子もつれ」状態は,従来の水素分子の「量子もつれ」状態と比較すると,10倍以上の大きな振動エネルギーを有するため(水素分子:10 meV,シリコン表面水素:100meV),室温でも安定な「量子もつれ」状態を形成することができる。

また,シリコン半導体表面処理技術を利用することによって,従来(102bit)よりも遥かに多い(106bit)量子ビットの形成が可能となり,超高速量子コンピューターを構築できるという。

水素の「量子もつれ」状態は,これまでにも水素分子で観測されているが,水素の「量子もつれ」状態は,今まで気相(気体)や液相(液体)でしか見つかっていなかった。

今回,シリコンの固体表面に結合した水素が「量子もつれ」状態になっていることを発見したことは,今まで相容れなかった現代のスーパーコンピューター技術と量子コンピューター技術を統合する新たな情報処理技術の創出につながるとする。

今回発見された「量子もつれ」状態を利用すると,テラヘルツ光波長領域で,多重にもつれたフォトンを発生できることを理論的に示した。このフォトンを利用すれば,秘匿性に優れた超高速量子暗号光通信が可能となるという。

また,多数の「量子もつれ」状態を組み合わせることによって,今まではSF上の話であった“物質(水素)の瞬間移動”も実現出来るようになるという(量子テレポーテーション)。

このように,今回の発見は,情報の保存,処理,物質転送に関する我々の常識を覆すものであることから,研究所グループは,医薬品の開発やデータセキュリティなど,さまざまな分野でパラダイムシフトをもたらす可能性があるとしている。

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