東京理科大学,統計数理研究所,東京大学は,機械学習でこれまでに見つかった準結晶の組成パターンを読み解き,新しい準結晶の化学組成を予測できることを実証した(ニュースリリース)。
研究グループは,非常に単純な機械学習のアプローチで準結晶を予測することに取り組んだ。データ解析にはオープンソースソフトウェアXenonPyを導入し,モデルの入力変数は化学組成,出力変数は,“準結晶”,“近似結晶”,通常の周期結晶を含む“その他”を表すクラスラベルとした。
近似結晶は,準結晶と類似した局所構造を持つ準結晶の関連物質。近似結晶は準結晶の組成の近くで形成されることが知られている。したがって,両者の安定化メカニズムはよく似ていると予想されている。
学習データには,これまでに発見された準結晶,近似結晶,通常の周期結晶の化学組成を用いた。このデータで訓練したモデルの3クラス分類問題における予測能力を系統的に調べた。
アルミニウムを含む三元合金系を対象に予測された準結晶相を実験相図と比較したところ,予測精度は約0.728に達することが分かった。特に,通常の周期結晶はほぼ完ぺきに予測できることが判明した。このアプローチを用いて,準結晶や近似結晶の候補組成を絞り込めば,物質探索の効率が大幅に向上することが期待される。
また,機械学習のモデルは,ヒューム=ロザリーの電子濃度則という準結晶合金の形成に関する経験則を学習していることが分かった。準結晶・近似結晶の多くは,1原子当りの平均遍歴電子数e/aが特定の値をとる組成で安定化することが知られている。
アルミニウム合金では,e/a=1.8を満たす組成で安定な準結晶・近似結晶が形成されると言われている。機械学習が予測した準結晶と近似結晶の領域は,ほとんどのアルミニウム合金において,e/a=1.8の直線と重なっていることが分かった。これは,機械学習のアルゴリズムがこれまでに発見された準結晶・近似結晶の組成データのみから,この広く知られた経験則を再発見したことを意味する。
さらに研究グループは,機械学習のブラックボックスモデルに内在する入出力のルールを抽出することで,準結晶と近似結晶の相形成に関する法則を明らかにした。この法則は,原子のファンデルワールス半径や電気陰性度などに関する五つの単純な数式で表される。
これらの条件は,準結晶研究において長年求められてきた新しい準結晶を探索するための設計指針となる。また,モデルには他にも多くのルールが隠されている可能性があるという。研究グループは,この成果をもとに固体物理学の中心課題である準結晶の安定化メカニズムを解明することを目指すとしている。