大阪公立大学の研究グループは,機械学習モデルを用いて,窒素や硫黄を導入した7種類の新たな有機半導体分子を設計し,合成,評価を行なった(ニュースリリース)。
有機半導体材料において,優れた特性を得るためには,優れた結晶構造やアモルファス構造が重要となっている。
しかし,どのような有機分子が良い構造を形成するかについて統一的な理解が確立されていないため,材料の候補を全て実際に合成し特性を評価するという研究が主流だった。そのため,優れた材料をより効率的に作成する方法が求められている。
研究グループは,機械学習を用いて有機半導体の特性予測と分子デザインを行ない,実際に数種類の半導体の分岐的合成と物性評価をした。 まず,文献調査により321種類の有機半導体分子の構造情報と正孔移動度のデータを収集し,80%を学習データ,20%をテストデータに分割した上で,機械学習により相関データを作成した。
その結果,分子に水素結合アクセプター原子である窒素(N)や硫黄(S)の個数(NHBA)が有機半導体特性に対して重要な指標であり,NHBA=4〜6が最適範囲であることを見出した。研究グループは,多くの有機半導体分子が水素原子を持つことから,特性向上の理由を水素結合アクセプター原子による,薄膜における強固な分子間相互作用によるものであると考えた。
そこで,実際にNHBAが5となる新規半導体としてジチエノベンゾチアゾール(DBT)という新規半導体分子を設計し,臭化物から誘導体化を行なう分岐的合成戦略により,7種の有機半導体を得た。
合成した有機半導体は,最終的には固体デバイスに適用されるため,それぞれの化合物のX線結晶構造解析を行なった。その結果,結晶中においてさまざまな積層構造を有しており,隣接する分子間の電荷移動積分を計算したところ,一次元的に高い値をもつ結晶と,二次元的に多方向に高い値をもつ結晶が確認できた。
さらに,導入したS原子やN原子が隣接分子と水素結合を示した結晶や,S原子同士の相互作用をする結晶も確認された。このように,水素結合アクセプター原子が示す分子間相互作用が固体構造を制御するという機械学習の結果を支持した。
これらの材料を用いて実際に有機トランジスタを作製し,特性評価を行なった。その結果,結晶相において強い分子間相互作用が働く材料では,約0.1cm2 V–1s–1程度の比較的高い正孔移動度を示し,有機半導体としての性能が高いことが明らかになった。
研究グループは,機械学習を利用した有機エレクトロニクスの発展に貢献することが期待される成果だとしている。