立教大学と東京大学らは,1999年にESAが打ち上げたX線天文衛星XMM-Newtonを用いた超新星残骸3C 397の観測により,Ia(いちえー)型超新星爆発を起こす直前の白色矮星の中心密度を決定した(ニュースリリース)。
太陽のような恒星は,最終的に炭素と酸素で構成される白色矮星を残してその生涯を終える。しかし,白色矮星が別の星と連星を成す場合,伴星からガスを受け取ることで成長を続け,その後,白色矮星として存在できる限界質量である「チャンドラセカール限界質量(太陽質量の約1.4倍)」に近づくと炭素の熱核反応の暴走によって星全体が爆発し,Ia型超新星となる。
Ia型超新星は全て同じ明るさになることから,遠方銀河までの距離を測る「ものさし(標準光源)」として利用されるが,明るさが天体間で同じになる物理的な理由は未だ解明されていない。また最近の研究では,質量や中心密度が大きく異なる多種多様な白色矮星が,いずれもIa型超新星を起こす可能性が指摘されており,「ものさし」の信頼性を再検証する必要性に迫られていた。
研究では,Ia型超新星の残骸として知られる「3C 397」に着目。この超新星残骸は,爆発前の白色矮星の質量が,チャンドラセカール限界質量に近かったことが指摘されている。そこで今回,空間分解能に優れるXMM-Newton衛星を用いて3C 397を観測し,その形状や元素分布を詳しく調べた。
研究では特に,その生成量が爆発直前の白色矮星の中心密度に敏感なTiやCrの局所的な元素質量比に注目し,詳しいデータ解析を行なった結果,残骸の南部に,鉄(Fe)やニッケル(Ni)に対するTiとCrの質量比(Ti/FeやTi/Ni)が異常に高い領域を発見した。なお,Ia型超新星やその残骸からTiが検出されたのは,今回が初だという。
この結果,3C 397で観測された元素組成比は,チャンドラセカール限界に近い質量を持つ白色矮星の中でも,特に高密度の中心領域でのみ実現することが明らかになった。また,観測値から制限された中心密度は想定より2〜3倍高かった。中心密度が高くなると,中性子数が過剰な原子核が生成されやすくなる。特にTiとCrの安定同位体の中で最も中性子過剰な核種である50Tiや54Crが大量に作られる。今回発見されたのは,これらの同位体と考えられるという。
研究グループは今後,多様性のさらなる理解を通じて「ものさし」の信頼性を高めることにより,宇宙膨張の歴史をより精緻に解明できると期待する。またこの成果は,太陽系形成期に作られた隕石「炭素質コンドライト」に見られる中性子過剰同位体の起源特定にも有力な手がかりを与えるとしている。