関西学院大学,九州工業大学,東京都市大学,宇宙航空研究開発機構(JAXA)らは,6月7日0時25分に打ち上げられた米国航空宇宙局(NASA)のロケットで,初期の天体の解明を目指した観測実験を行なった(ニュースリリース)。
宇宙初期天体は紫外線で明るく輝いていたと考えられており,その光は宇宙の膨張に伴う赤方偏移により,現在は近赤外線として観測されると期待されている。
こうした研究は,遠方の天体を個別に近赤外線で観測し丹念に調べていく手法が一般的だが,宇宙の最初期の天体は暗すぎて巨大な望遠鏡でも観測が難しい。そこで研究グループは,宇宙初期天体や遠方の銀河からの光が折り重なった宇宙赤外線背景放射として観測する手法を進めてきた。
そして観測の結果,銀河などの既知の天体による寄与をすべて考慮しても,観測された宇宙赤外線背景放射の明るさを説明するには足りないことを明らかにした。これは未知の天体が宇宙に存在することを意味する。
この未知天体の正体については,宇宙初期の残光であると発表され話題となった。しかし前回のロケット観測実験CIBERの観測データからは,未知天体の多くは近傍宇宙に存在する可能性が高く,宇宙初期からの寄与は多くはないことが示唆された。そこで今回,CIBER実験の10倍以上高い感度で宇宙赤外線背景放射を観測した。
新たに,口径がCIBERの3倍の30cm反射望遠鏡と,その後段に装備したCIBERの2倍の視野を持つ4メガピクセル赤外線カメラを開発。液体窒素で-200℃まで冷却するとともに,望遠鏡は冷却による熱収縮でピントがずれないように全ての部品をアルミニウム合金で製作し,相似形で収縮するという工夫を施した。
波長0.5~2μmの範囲を6つの測光フィルタで区切り,それぞれの波長で明るい星がない4つの天域を撮像した。また同じ波長範囲での分光機能も備え,宇宙赤外線背景放射の詳細なスペクトルを測定した。これらの機能は,1つの望遠鏡からの光を波長ごとに分けて3つの赤外線カメラへ導入し,それぞれの検出器に2波長フィルタと分光フィルタを装着することで実現した。日本は開発では望遠鏡と光学系および冷却系の開発を担当した。
CIBER-2では,CIBERより短い波長の可視光を含む広範囲の波長をカバーする。今回可視光での観測が加わることで,初期天体に特有な「ライマンブレーク」と呼ばれるスペクトル形状から,宇宙赤外線背景放射への初期天体の寄与率を明確にすることができるようになるという。
研究グループは,現時点ではデータの解析中だとするが,ようやく目標へのスタートラインに立つことができたとしている。