理化学研究所(理研),横浜市立大学,英ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校は,パンコムギ(コムギ)の葉の発生過程について詳しく調べ,コムギの光合成機能は,2段階の葉緑体発生過程(色素体増殖期と葉緑体成長期)を経て成立することを明らかにした(ニュースリリース)。
コムギやイネといったイネ科植物の葉は,葉の基部から先端部に向かって発生が進むため,先端部に向かうほど発生の進んだ細胞で構成されていることが知られている。これを生かして,これまでにもイネ科植物の葉の基部から先端部に向かって葉組織を観察することで,発生に伴う時間的な変化が調べられてきた。
しかし,葉の基部の茎頂組織に存在する分裂組織(メリステム)から葉の原基組織が発生し先端に向かって成熟する過程における,葉緑体の発生過程と遺伝子発現の関係の全体像は未解明だった。
今回,研究グループは,コムギの葉の成長方向に沿って,細胞の大きさ,葉緑体が細胞内に占める割合や葉緑体ゲノムのコピー数の変化といった細胞学的な観察を行ない,葉原基細胞や葉肉細胞とその内部で発達する葉緑体の状態から,コムギの葉の発生過程を15段階に分類した。そして,各発生段階の葉組織について,葉緑体の分化と発達,細胞分裂の周期,タンパク質・遺伝子発現などの観点から調査した。
これらのデータを統合して,各発生段階を特徴付けるとともに,コムギの葉の発生に関してはこれまでで最も網羅的かつ詳細な遺伝子発現マップを作成した。さらに,各発生段階において特徴的な細胞学的な変化と遺伝子発現状態から,コムギの葉における光合成機能が2段階の葉緑体の発生過程を経て成立することを明らかにした。
今回作成した,主要作物でもあるコムギの葉の発生過程の詳細な遺伝子発現マップは,光合成機能が成立する過程の葉の遺伝子発現解析では,最も解像度の高いものといえるという。
さらに,各発生段階の組織についての細胞学的な定量解析結果との統合により,作物の収量性にも重要な光合成機能の成立過程において,どのような変化がいつ起こるかという参照情報として,コムギをはじめ,イネやトウモロコシといったイネ科作物の光合成機能を向上させる研究に有用な知見を与えるとしている。