愛媛大学の研究グループは,①観察対象への低い光毒性,②広い視野範囲,③高い空間分解能(高解像度),の3つを向上する,2光子励起光シート蛍光顕微鏡を開発した(ニュースリリース)。
蛍光顕微鏡は非侵襲で細胞内部の分子レベルでの観察ができる画像計測装置として生命科学分野で広く利用されている。中でも,光シート蛍光顕微鏡は高速かつ高分解能に3次元空間の情報を画像として取得できる。
しかし,従来の光シート蛍光顕微鏡は,観察対象へ与えるダメージ(光毒性)が大きく,また,広い視野範囲と(細胞レベルの)高い空間分解能を同時に達成することが困難だった。
今回,研究グループは,この課題の解決の鍵となるのは近赤外光を利用した2光子励起現象の新たな利活用であると考えた。2光子励起顕微鏡は,生体に優しい蛍光イメージングが行なえるが,2光子励起を起こすために狭い範囲に光を集中させる必要があり,励起範囲(光シート顕微鏡では“視野範囲”)が狭くなってしまう。
励起範囲を広げるためにビーム長を伸ばすと空間分解能が低下する。さらにそれに付随してレーザーのエネルギー不足も問題となる。研究ではこれらを解決するため,レーザー集光範囲を光軸方向に伸長させる(励起範囲を広げる)ベッセルビーム形成を可能な限りシンプルにして,エネルギー損失を大きく抑制することを目指した。
検証の結果,作製した光学ユニットが,分解能を2-3μm(10倍拡大率,開口数0.3の対物レンズを利用)に保ったまま,ビーム長を600-1000μmの範囲で変化させることができることを確認した。これまでの2光子励起現象を応用した光シート顕微鏡では600μmの視野範囲が最長で,この光学ユニットはこれを大きく改善した。
この光学ユニットを用いて,メダカ全身を細胞レベルで観察可能な性能(視野範囲1mmで空間分解能5μm以下)を持つ2光子励起光シート蛍光顕微鏡を構築した。特性を評価するために一般的なビーム形状であるガウスビームと比較解析を行なったところ,ガウスビームでは広視野範囲と高分解能の両立が実現できないのに対して,ベッセルビームでは実現されることが示された。
この顕微鏡を小型魚類(メダカ)の胚発生の観察に応用したところ,メダカの成長を阻害することなく(低光毒性),メダカ全体に対して(広い視野範囲),その発生過程を細胞レベル(高解像度)で,3日に渡り観察することに成功したという。
この技術は,生物の発生メカニズムの分子レベルでの理解や生活習慣病などの疾患因子の解明,さらに,治療薬の開発基盤技術に貢献するものとしている。