理化学研究所(理研),豪シドニー大学,独ルール大学は,半導体量子ドット中の電子スピン量子ビットを用いた「確率的テレポーテーション」に成功した(ニュースリリース)。
半導体量子コンピューターではこれまでに一つあるいは二つの量子ビットを用いたアルゴリズムを中心に実現されてきた。次の段階として三つの量子ビットを用いたアルゴリズムの実現が望まれていたが,その制御難易度から実現例はごくわずかだった。
研究グループは,砒化ガリウムと砒化アルミニウムガリウムを用いた半導体基板上に金属電極を微細加工することで,三重量子ドット配列構造を作製した。この試料は,各量子ドット中に単一電子スピンを閉じ込めることで3量子ビット系として機能する。
量子テレポーテーションでは三つの量子ビットがそれぞれ,転写したい情報を持つ入力ビット,情報が転写される出力ビット,これら二つのビット間で量子相関を伝達する補助ビットとして機能する。今回,ドット配列上端に位置する入力ビットの状態を下端に位置する出力ビットへ転写することを試みた。
実験では,まず上下両端の量子ビット間の直接的な結合の大きさを調べ,両端の量子ビットは互いに干渉しない遠隔地にいると見なすことができた。
続いて量子テレポーテーションの実験を行なった。量子もつれの操作を「パウリスピン閉塞」という量子ドット系特有の現象で実現すると,補助ビットと入力ビット間の量子もつれの検出の成功が確率的になるため,出力が入力と一致する確率が1より小さくなる。このような手法を「確率的量子テレポーテーション」と呼ぶ。
その後,出力ビットの状態を測定したところ,入力ビットの状態が出力ビットへ転写されていることが示された。一方,量子もつれの検出に失敗した場合は入力によらず出力が一定となり,補助ビットを介した量子もつれを利用することが出力ビットへの状態転写に必要不可欠であることが示された。以上の結果から,量子もつれを介したテレポーテーションが成功していると推察した。
さらに,エラーの要因について調べたところ,量子ドット間の不均一磁場の影響により量子もつれを生成する効率が理想値よりも低下していることが大きな要因であることが分かった。これは微小磁石の設計変更により改善することが可能で,大規模な量子計算に向けたエラー低減のための知見が得られたとする。
この成果により,測定に基づく特殊な量子計算や大規模な量子計算に向けた研究開発の進展が期待できる一方,今回の方式では量子テレポーテーションの成功は確率的なため,常に量子もつれを検出できるようにすることが今後の課題だとしている。