東京大学の研究グループは,野生型イネと比較して,高温環境における光合成速度を約20%,最終的な植物体重量を約26%向上させたイネを作出することに成功した(ニュースリリース)。
近年の温暖化により,食糧の安定供給は人類にとって最も重要な課題になると考えられている。地球の年平均気温が1℃上昇するごとに世界のイネの収量は17%減少すると報告されており,これは高温による光合成能力の低下が関与していると考えられることから,高温環境下でも高い光合成能力を発揮する作物を作り出すことが急務となっている。
しかし,農薬耐性や病害虫耐性作物については,遺伝子組換え技術を用いて,ダイズやトウモロコシをはじめとするさまざまな作物で開発・実用化されてきたが,高温に対する光合成応答機構は複雑なことから改良の鍵となるターゲットは未だ明らかにされておらず,高温耐性作物の開発は遅れていた。
研究では,光合成のCO2固定酵素であるルビスコと,ルビスコの活性化を促進する酵素であるルビスコアクチベースを増強した二重形質転換体イネを新たに作出した。
一般に,C4植物はC3植物に比べ,高温環境でルビスコ活性化状態を高く維持できることが知られているが,これはC4植物のアクチベースがC3植物よりも最適温度が高いためだと考えられている。
そこで,C4植物であるトウモロコシ由来のアクチベースとC3植物であるイネ由来のルビスコをイネに導入した。作出した形質転換イネから選抜を行ない,ルビスコ量が減少せずアクチベース量が約2倍増加した二重形質転換体イネを複数系統作出することに成功した。
二重形質転換体の光合成速度とルビスコ活性化率は,25℃では野生株と同程度だったが,40℃では有意に高い値を示した。また,個体の地上部乾燥重量を測定したところ,二重形質転換体は野生株に比べて26%増加することが分かった。
これにより,ルビスコ量を減少させずにアクチベース量を増加させることによって,温暖化環境において,イネの光合成能力と生産性を向上させることが可能であることを明らかにした。
植物の光合成は食料ばかりでなく,地球のほぼ全ての生命の究極のエネルギー源となる。種々の用途に使われるバイオマスを供給し,呼吸に必要な酸素を供給する意味でも,非常に重要な反応といえる。
研究グループは今後,温暖化環境において光合成が抑制されるメカニズムを解明し,光合成効率の改善を可能にするとともに,それを基礎として,バイオマスや食料増産,地球レベルの大気中CO2濃度の削減につなげることが期待されるとしている。