名古屋大学と理化学研究所は,世界初高感度X線偏光観測衛星「IXPE」に搭載される受動型熱制御薄膜フィルターおよびガス電子増幅フォイルの製作を完了し,各々アメリカ航空宇宙局(NASA)やイタリアチームに提供した(ニュースリリース)。
米・伊・日本などを中心とする国際協力ミッション「IXPE」は,2021年度に打ち上げが予定されているX線偏光観測衛星。軟X線帯域にて高い感度を有する望遠鏡と撮像型偏光計が搭載されており,これまでの偏光観測衛星と比較し二桁以上の高い偏光検出感度を実現する。
望遠鏡用熱制御薄膜フィルターは,アルミの性質を利用し,外部からくる強烈な太陽光を遮断し,かつ望遠鏡内部からの赤外線を外に出さないようにすることで,望遠鏡に最適な熱環境を作り出す。
これに加えて,X線の透過率は高くする必要があるため,IXPE衛星では厚さ50nm程度の薄いアルミ膜を用いた。このアルミ薄膜を支える構造として,耐熱性と機械強度に優れる厚さ1μmほどのポリイミドフィルムを下に敷く。これに機械強度部材として,ステンレス製メッシュとアルミ製土台がさらに加わる。
このフィルターは望遠鏡鏡筒の上下端部に取り付けられる。IXPE衛星では望遠鏡3台が搭載されるため,6枚の搭載品に6枚分のスペアの計12枚を NASAに納品した。また,開発で得られた膨大な実験データ一式も提出し,承認に至ったという。
一方,撮像型X線偏光計用ガス電子増幅フォイルを用いるIXPE衛星搭載の撮像型X線偏光計は,光電効果を用いて,粒子として検出されたX線一粒一粒から偏光情報を取り出すことができる宇宙観測装置。
天体からのX線一粒が偏光計内に封入されたガスの原子と光電効果を起こすことで,光電子が飛び出すが,その飛び出す方向は,元のX線の持つ偏光方向であるという性質を用いる。この装置は,X線によりガス原子から叩き出された光電子の飛跡を,ミクロン単位で計測することができるという。
光電子による電気信号は,そのままではきわめて弱いので,微細加工技術によって製作した「ガス電子増幅フォイル」を用いて,電子回路で計測できる電圧まで増幅する。このフォイルは,50μm離れた両面の電極間に500V程度の電圧をかけることで,穴を通過する際に1個の電子が1000倍程度に増幅される。
この穴サイズの宇宙用ガス電子増幅フォイルを作ることができるのは,世界中で理化学研究所のグループだけだとする。このフォイルは現在はイタリアから米国に輸送され,IXPE衛星に搭載され,試験が進められているという。